第13話 トーキョー

 次の日、ぼくは日がでてくるのとおなじく、起きあがった。だいたい、朝の四時か五時くらいだろう。目覚めが、いつも家で起きるよりすがすがしい。


 ぼくはナーニャから借りた帽子を深くかぶって、頭の上にあるお皿をかくした。ナーニャはマントをすっぽりはおって、テングさんは大きなマスクをしている。なんの変装もしていないのは、お手伝いさんだけだ。

木の実をたべて腹ごしらえすると、さっそく駅まであるいた。できるだけ人のすくない、始発にのろうと、意見がまとまったんだ。駅に着くまで、ひとめを気にして、ナーニャのクモの糸でとんだり、テングさんのつばさでとぶのはさけた。駅までは、歩きでもあっというまに着いた。

テングさんは、じまんげにいった。

「ここが、トーキョー駅だ」

「うわあ。大きい!まるで迷路ね。そう思わない?ロクロ」

お手伝いさんは、ロクロと呼ばれていた。ぼくもやしきに住むようになってから、さりげなくマネをして、ロクロとよんでいる。ロクロが、コクリとうなずいた。

「いつきても人が多いなあ。ぐあいがわるくなっちゃうよ」

テングさんが、せっかちに言う。

「てきとうに進めば、どこかにはつくだろうよ」

「だめだよ。ここは、ほんとうに広いし、汽車だって、いろんな方向に走っているんだから」

ぼくは路線図のまえに、みんなを連れてきた。

「これをみて、考えるしかないよ」

ケータイがあれば、楽なんだけど、いなくなったぼくのケータイ料金を払わせるのは、もうしわけなくてこわしちゃった。それに、いつかは親が、ぼくのケータイの契約をきって、使えなくするだろう。それがいつになるのかを知るのが、ぼくはとても怖かった。だって、ケータイがネットとつながらなくなったとき、それは、ぼくの家族がぼくを忘れたってことに違いないないから。

「この路線図ごちゃごちゃしてて、何がなんだか、わかったもんじゃないわ」

テングさんは、きのうの夜はあんなに自信まんまんだったのに、いまは気配をけしている。

ナーニャがぼくをキッと見て言った。

「あなた、つい最近までこういう駅で、汽車にのってたんでしょ?きのうだって、案内してやるって、さわいでたじゃない」

そんなあっ。ぼくはテングさんに助けを求めるように、ちらと見たけど、テングさんは、どこ吹く風で、そ知らぬそぶり。ぼくに背を向けて、くちぶえをふいていた。

ぼくはあきらめて言った。

「ケータイで調べられたんだけど、いまはできない」

ぼくは続けて加えた。話題をすこし、そらすためだ。

「そもそも、どうやって汽車に乗るんだ?きっぷはどうやって買う?ぼくたち、ちょっとはお金を持っているかもしれないけど、カナガワに行くには、全然足らないよ」

ナーニャは、顔をすこしうつ向けて、かんがえた。それから、ぱっと顔をあげた。その表情は、とてもキラキラしていて、なんだかいやな予感がした。

「あの改札さえ通りぬけちゃえば、いいんでしょう?」

「ぜったい、つかまっちゃうよ」

ナーニャは、ぼくの話を聞かずに、ぼくをおぶって、駆けだした。テングさんも、ロクロをかかえて、ナーニャのあとを追う。

まわりのみんなが、駅員もふくめてあっけにとられるなか、ぼくたちはぴょんぴょんとんで、つきすすんだ。

ナーニャが、息を切らしながら、ぼくにきく。

「ねえ、けっきょく、汽車はどっちに乗ればいいのっ?」

ぼくはあせった。

「知らないよ。路線図をよくみる前に、君が走りだしたんじゃあないかっ!」

「つべこべ言わないで、どっちなのか考えなさいよ、つかまるでしょ!」

ナーニャは、手首の内側をくっつけて、お縄のポーズをしてみせた。

なんて、不公平な、と思ったけど、つかまるのはいやだから、おとなしく標識をみた。

なんとか行き、って標識を見ても、行ったことない場所だから、わからない。のぼりかくだりかで、ざっくり決めちゃおう。

「左っ。左にまがって!」

ナーニャは、ぐいんと急カーブした。まるでお父さんが運転しているときに、お母さんが道を教えるときみたいだなあ、なんてのんびり思ってたら、ロクロの首とぶつかりそうになった。

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