第2話 きっかけのきっかけ

一ヶ月前―

 バリーンッゴロゴロゴロ……がしゃんっ


 ああ、やっちゃった。僕たちは、もう笑うしかないって感じで顔を見あわせた。カズキは泣きそうな顔だっだけれど。


 それは金曜の放課後、裏庭の人気のないところでキックベースをしていたときだった。


 キックベースは、野球のバットの代わりに自分の足を使うスポーツで、僕たち学校のみんなはそれが大好きだった。


 けど僕たちの小学校では、キックベースは禁止になってしまった。

 

 僕が、まだ小学一年生のとき、はなを折って、顔がそのままになっちゃった人がいたらしい。


 それでキックベースはぜったいダメってなったんだけど、僕たちはよく裏庭で先生の目をぬすんで、ボールを蹴っていた。


 いそいそと三つ、三角を地面に描いてね。


 でも、その日は運が悪かった。

 

 いま振り返ると、いつかはぜったい起こることだったのかもしれないと思うけれど。


 ぼくたちがアッと思ったときには、二宮金次郎像のてくびは、ボキッと折れてしまった。地面に落ちていくしゅんかんまで、しっかりこの目で確認したとも。


 ぼくたちは、折れてしまったてくびの周りに、ゆっくり近づいていった。


 ぼくは、冷や汗をかいていたけど笑みをうかべて、余裕をよそおいながら手首のほうへ行った。


 その手は、しっかりと本をつかんでいた。


 二宮金次郎像の、あたまとおなじくらいだいじなものをこわしちゃったみたいだ。だって、本を持ってない二宮金次郎像なんて、ただの石像にしかみえないもの。


「どうしよう、僕たち、コテンパンにやられちゃうよ」


 カズキは震える声で言った。さっきまでピンク色だったほっぺたは、いまは青くなって、すっかり汗も引いていた。


「どうしようも何も、謝りに行くしかないだろうよ」

 ハルキは、カズキの肩を励ますようにたたきながら、苦笑まじりにそう言った。


「そうだね、自首すれば、ゲンケーされるさ」


 ハルキが爽やかに言った。ゲンケー?


「罪が少しは軽くなるかなって。まあ今回の場合では、先生に怒られる具合が減るかなってことさ」


 僕の顔から『減刑』の意味がわかっていないことを読みとってくれたのか、ハルキが教えてくれた。小さい紙きれに、すらすらと漢字をかいてくれた。


「なるほどね。キタムラ・ジュンコ先生、減刑!してくれるといいなあ」

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