第26話 連鎖実験

「これが、花月さんからの紹介コード。まずは、これを誰かに使ってもらって、ニャンキットをスマホに入れてもらうわ。」

京香が、ニャンキットの友達紹介の謎を解くんだよ!という説明の後、みんなにスマホの画面を見せる。11桁で数字や英字混じりの文字列が見える。

「じゃあ、くじ引きで順番決めましょうか?」

サクサク進めていく京香に雷二郎がストップを掛ける。

「待て、京香。確かに友達紹介の連鎖でニャンキの出現率が上がるという読みはいいと思う。でも、課金させる事になるんだ、皆の意見を聞こう。」

風北も、

「もともと私の友達のこと相談したのがきっかけだし、風鈴さんたちまで巻き込むのは…。」

京香は、

「そうよ風北さん。私も巻き込まれたと思ってる。まあ、それは雷二郎が、お節介好きなせいだから、この際よしとしてる。風鈴さんたちは、気が乗らないならいいわよ。上に戻ってギターの練習でもしてて。」

何だか挑発するような京香の言い方に、売られた喧嘩は買いますといった表情で、寿々葉が、

「私も参加します。気になって上でギターの練習できる気分じゃないよ。」

「お、お姉ちゃん…。」

京香を恋敵として、強く意識している寿々葉のことが心配な野々葉は、姉が参加することに不安を覚え、

「じゃあ、あたしも〜、参加しちゃおうかな〜。ただ、少し説明が欲しいなあ。」

と、ムガの方に視線を送る。ムガは、その視線を受け、

「よ〜し、ボクが野々葉ちゃんたちに掻い摘んでお話するね。実はね、夏美ちゃんのお友達が、そうそう、その娘バーソロなんだよ。凄くない? あそこの制服見るとね、何だか心が弾むっていうか、あの胸のところのちっちゃな十字架がね、天使様〜って感じで…」

京香が、

「ちょっとムガ、どこが掻い摘んでなのよ!全然話が脱線してるじゃない。全く男どもときたら、バーソロって聞くとすぐ鼻の下伸ばしちゃって。ったく、もう。説明は私がするわ。」

その後、京香が事の顛末を詳しく説明した。特に、この前花月のお友達、柏木から得た情報を。南校で問題になって、生徒アンケートまで行われたことまで語ったところで、雷二郎が、

「やはり、ニャンキットには、何か友達紹介をしたくなる要素があるんだろう…。アプリを入れてない友達の取り合いや、強引な押し付け…。人間関係悪くなりそうな要素がたくさんありそうだ。」

「うん。夏美さんのお友達も、きっとそういったものに巻き込まれているんじゃ。」

京香は、そう言うと、

「じゃ、選んで。」

即席で紙に書き上げたあみだくじをテーブルの真ん中に置く。それぞれが、どのあみだにするか選び終わると、京香が折り曲げていた結果部分を開いて、順番を発表する。もうニャンキットを入れているムガと夏美は今回はくじを引かない。

「私からだね。」

既にニャンキットをインストールし終えた野々葉が、先程の花月からという紹介コードを入力する。課金されますという注意書きに対してOKを押すと、画面が変化して沢山の壁紙のサムネイルが明るくなる。

「京香、どうだ?」

野々葉を紹介した花月の上位紹介者である京香にニャンキが現れなければ、この実験は失敗ということになるのだが…。直接紹介した人物には、この時点でアプリの説明通り100POINTが加算される。この場合は、この場にいない花月に加算されているはずだ。

その時、不意に着信音が鳴る。京香の携帯に注目していた皆は、着信音にハッとする。

「はい。そうです。天城霞です。」

だが、着信音は京香の携帯からではなく、ムガの携帯からのものだった。ムガは通話がみんなの邪魔にならないよう廊下に出ていく。しばし、ムガに視線が集まっていたが、

「あっ!ニャンキだ!」

京香が、自分の携帯に現れたニャンキを見て声を上げる。皆が京香の携帯画面に注目すると柔道着を着たニャンキが手や足を繰り返し動かしている。京香が、タップするとカラテニャンキと文字が表示され、同時に215POINTという表示も点滅している。やはり…そうなんだ。その場にいる一同は、誰もが京香の予測通り、下位の紹介者が、誰かを勧誘すると上位の紹介者にもポイントが入るんだ!という思いを強くした。

「次、行くよ!」

京香が野々葉と雷二郎に声を掛ける。野々葉は、うんと頷くと、紹介コードを画面に出す。雷二郎がその英字数字の12桁を入れ終わり、課金の処理を済ませる。

今度もしばらくして、京香の携帯にニャンキが現れた。着物を着たニャンキで、タップすると夏祭りニャンキと文字か表示される。ポイントの表示は123POINTであった。

京香が誰かに連絡を取り始める。

「花月さん。うん、そう、ファイヤーマンニャンキ?分かった、うん。ありがと。」

通話を終えた京香が、皆に今の通話内容を伝える。

「野々葉さんのすぐ上の紹介者、雷二郎から見れば、二つ上の紹介者。F組の花月さんっていう娘なんだけど、彼女にもニャンキが現れて、211POINT入ったそうよ。」

雷二郎が、顎に指を当てながら、京香に尋ねる。

「ほぼ、決まりだな。どうする?まだ続けるのか。」

京香は寿々葉の方を見て、

「寿々葉さん。任せるわ。だいたい予測通りになってることが分かった。下位の紹介に対しても、上位にポイントが還元される。」

寿々葉は、

「乗り掛かった船だし、検証の精度を上げるために私も課金します。」

「ありがとう。」

京香は軽く頭を下げる。寿々葉は、気にしないでと言った後、

「じゃあ雷二郎くん。紹介コードを見せて。」

「ああ、コレだ。」

そう言って画面に映し出されている13桁のコードを寿々葉に見えやすいように差し出す。寿々葉は、入力し終えると、皆に聞こえるぐらいの声で、押すよ!と宣言する。寿々葉のニャンキットにも課金がなされた。またしばらくすると、

「あっ来た!」「私にも来た!」

京香、そして野々葉のニャンキットにニャンキが現れる。野々葉の方は布団に入ったお休みニャンキというキャラ、京香の方は、普通のニャンキが画面を覆いつくしている。少々数えるのに苦労していたが、数え終わると皆に報告する。

「48匹だった。」

皆は確信した。ニャンキットは、友達紹介をすればするほど、ポイントが入る可能性が高くなること。そして、友達紹介の連鎖が続くとポイントがゲットし続けられること。


「お姉ちゃん、これって、前お母さんに教えてもらった不幸の手紙ってやつに似ていない?」

野々葉が何か思い出したように姉に話し掛ける。

「そうだね。似ている気がするね。」

雷二郎が尋ねる。

「不幸の手紙っていうのは?」

寿々葉は頷くと説明を始める。風鈴たちの母親が小さい頃に流行ったものらしく、仕組みは単純で、まず、

「この手紙をもらった者は、5人に同じ手紙を書かなければ不幸になる。」

という文面の手紙が、自分のところにやってくる。手紙をもらった人物は、自分が不幸になりたくないから、5人のお友達に同じ内容の手紙を書く。その手紙をもらった人物もまた5人に書く。

「そんな5人ずつ増えていったら、あっという間に広がっちゃわない?」

京香が感想を述べる。寿々葉は、

「お母さんもそう言ってた。だいたいクラスの子には、すぐ行き渡っちゃって、隣のクラスとか習い事の知り合いとかに無理矢理広げるらしいんだけど、すぐにダブって何回も色んな人から届くようになるって。」

「ひどいイタズラだな…。まあニャンキットは5人に紹介しろという命令は無いけど、確かに仕組みは似ているかもな…。仮に5人ずつ紹介していったら、5x5=25、25x5=125、125x5…。」

雷二郎の呟きを聞いた野々葉が、ふえ〜と驚きの声を上げ、

「凄いですね!ポイントがどんどん貯まりそう!え~と、え~と、でも…。」

「どうしたの野々ちゃん?」

何か思い付いた様子の妹に寿々葉が尋ねる。

「これって、ポイントが無くなったり、減らされたりしないのかな?」

「無くなる? 誰の?」

姉が再び尋ねると、

「ニャンキットの会社って言えばいいのかな? だって、永遠にポイントばらまいてたら、儲けが無くなっちゃうんじゃないのかな?」

「そうかな。だって、紹介した人がまた課金するんだから、大丈夫でしょ。」

風鈴姉妹のやり取りを聞きながら、雷二郎が何か考え込んでいる。他の皆もそれなりに自分の考えをまとめようとしてみたが、雷二郎が、何か思いついてくれるのでは?と、心のどこかで期待してしまって、雷二郎の方をチラチラ見ている。そして、その期待通り雷二郎が何か口に仕掛けたとき、

「みんな~ボクのライブが決まったよ~!」

廊下から元気な声のムガが戻ってくる。

「しかも、浜松のライブハウスのZtoAだよ!これでボクも、あの伝説のバンド、メタキュラーに一歩近いちゃったね~!」






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