第25話 幼馴染みの意地
土曜日のムガ家の午後。門をくぐると既に、家の中から賑やかな女子の声が聞こえてくる。挫けて怯みそうになる京香は、強い意思をもってドアを開ける。
「雷二郎、ムガいる~?」
「京香さん…。」
「ツラいの最近…。私はずっと雷ちゃんの側にいられる、いてもいいんだ。そう思ってたのに…。」
テーブルにポタッ、ポタッと、俯く京香の眼から落ちた水滴が、音を立て始めている。そんな、京香を見つめる明日佳の目にも涙が滲んできた。小さい頃の自分の姿が重なって見えたからだ。
(私だってそう。どうして離れ離れにならなきゃいけないのか、どうしても、どうしても分からなかった…。)
明日佳は、ハンカチをバッグから取り出して、京香の目に当てながら、
「あ~あ。ガーディアン失格だな。平等に審査しなきゃいけないのに。でも、幼馴染み割引って必要だよね。」
明日佳が変なことを言い出したので、少し視線を上げた京香に、
「京香さん、元気出して。もっと自分に自信をもってもいいのよ!」
「でも…。」
「お兄ちゃんってさ。結構モテたじゃない?なんか野球の試合の後に歳上の女の子とか来てさ、彼氏になって~なんて感じで。」
?といった感じの表情で、まだ涙の乾かない京香が、明日佳を見ている。
「他にもバレンタインに、チョコとセットで告白してくる娘とかさあ。でも、全部断ってたじゃない?」
「でも、それは、ムガ君のこともあって必死だったから。」
「ノンノン!それは違うよ京香さん。ムガ君のとこで暮らす前だって断ってたもんね。」
「そうだったっけ?」
「でも、私は知ってる。京香さんからチョコもらったときのお兄ちゃんの顔。それに、バレンタインのチョコもらったとき、ありがとって、いつも京香さんに言ってたよね。」
「!?」
「つまり、こういうことなんだよね。お兄ちゃんは京香さんからチョコをもらうと嬉しい。他の娘はシャットアウト!これってどういうこと?」
「え、でも…。」
「でもも桃も無い!つまり、そういうことよ。あっ、ただ私のチョコにもありがとうって言ってたから、ごめんね本命は私かもしれないや。」
(そう、だから、今、この家に風北夏美がいようが風鈴姉妹がいようが、関係ない。)
「上がるよ~。」
そう言って京香はムガ家に上がると、くつを揃えてから居間のドアを開ける。
「お邪魔しま~す。ねえ、聞いて雷二郎、それから夏美さんも。」
そう居間の二人に声をかけたあと、大きな声で、
「ムガ~!それから風鈴さんたちも~!ちょっと降りてきて~。話があるの~。」
何だ何だという顔で、雷二郎と夏美も京香を見上げている。やがてムガが風鈴姉妹を伴って二階から降りてくる。
「どしたの~?京香ちゃん。」
京香は居間に揃った面々を見渡すと、ニヤリとし、
「はいは~い皆さん。今日は、私の実験に付き合って貰うわよ。いい?これは雷二郎からの依頼だからね。断るなんて、認めないからね~。」
降りてきたばかりのムガも風鈴姉妹も、いったい何が起こるのだろうといった顔で京香を見ている。
「それじゃあ、説明するね。え〜と、まずは作戦名から、分かりにくいのは嫌だから、そうね。ニャンキを一杯出現させようプロジェクト!」
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