第18話 分析
「センセイ、ごめんね…。厄介ごと持ち込んじゃって…。」
「気にするな。困った時は、俺も下妻さんによく相談している。自分の力で手に負えないときは、人を頼っても問題ないと、俺は思っている。」
「でも、何だかお世話になりっぱなしで、どうやって借りを返せばいいのか…。」
「夏美、それも気にするな。借りを返す相手の俺が気にしていないんだから問題ない。それより、今まで集まった情報を整理するぞ。」
センセイありがと、夏美はそう小さく呟くと、雷二郎がテーブル一杯に広げた白い模造紙に視線を遣る。
紙には、ニャンキットのアプリのマークから友達紹介というところまで線が引かれて、100~200ポイントと書かれている。その下には、ネットで集めた情報、ニャンキのイラストが描かれている。ニャンキは猫の可愛いキャラなのだが、コスチュームや体の色が様々に違うようで、紙にも例としていくつか描かれている。王冠を被って髭を生やしたニャンキの下には250と小さく文字が書かれているし、ノーマルなニャンキの下には1 と描かれている。
なかなか絵が上手と思った夏美は、
「センセイ、絵も上手なんだね。意外。」
「いや、これは風鈴たちが描いたんだ。俺がこんな可愛い系のキャラを熱心に描いていたらなんかヤバいだろ?」
(そんなことないよ。センセイのことは私、全肯定です!)
夏美は、その竜神の問いには答えずに、
「そういえば、ムガくんにギター教わりに来てるんだってね。」
「ああ、俺がここでコレ書いていたら、何やってるの?って感じで。説明したら絵があった方が分かりやすいよって。」
「ふ~ん。」
(あの双子も頑張ってるんだねえ…。私も負けてられない!)
竜神の説明がニャンキの絵の下の注意書きに移る。
「そして、SNSでの傾向は、ニャンキのキャラをアップすることには、特にクレームが入らないが、ニャンキの出現方法に関して触れている書き込みは少ない。何故なら、アプリ側から書き込みを削除するよう警告が、入るみたいなんだ。」
これが警告文、と言って夏美に雷二郎が画面を見せる。
「警告 法的措置対象になります。弊社キャラニャンキの出現方法を公の場で不特定多数の者に提示することは、アプリダウンロードの際の規約に反することになります。 うわっ!何コレ、その後の長い中国語の文は…。」
夏美が驚いて雷二郎に尋ねる。
「そうなんだよ。翻訳アプリでそれ直すと、向こうの裁判所に訴えるからとか、出廷しないときはとか…。警告の文が続くんだ。普通の人には想像もつかないからな。向こうの法律がどうなってるのかなんて。だいたい海外の裁判に出廷できるはずもないし。」
「なんか怖いから、アタシだったら絶対書き込み、言われた通り削除するな。」
雷二郎は、頷いて、
「俺だってそうだ。アプリ開発元が日本じゃなくて、海外の法廷に召喚されるって言葉が、かなりのプレッシャーになっている。」
「ニャンキの画像には文句言わない。だけど、出現方法の考察には厳しい措置を取る…。」
夏美は、そう呟きながら、自分のスマホの検索に引っかかったニャンキの画像をスクロールさせていく。本当に種類が豊富で、しかもニャンキがとても愛らしいので、それをコレクションしたくなる気持ちは分かる。しかもニャンキ出現はポイントが手に入ることと同意。
「これ、すごいね!ニャンキが画面に47匹、タイトルも討ち入りか?だって。」
見つけた面白い画像を夏美が雷二郎に見せる。
「このニャンキは数は多いがノーマルだから、ポイント自体は47ポイント。でも、見た目が派手で映えるな…。」
そう言った後、雷二郎は、紙の端の方に書いた換金方法(お金儲け?)の欄を指差す。
「ニャンキットのポイントは通販サイトのテアセルで使えるポイントに交換できるそうだ。で、そこで売っている銅蜀というプリペイドカードを買うことで、日本の国内の色々なお店で使えることになるらしい。」
「ふ~ん。ややこしいね。」
「ああ、でもこれで、現金を配っている訳じゃないって言えるし、そのテアセルって海外の通販サイトは、全く別の会社だから、もしニャンキット自体が、何かしら問題のある会社だとしても、それを証明するのが色々面倒だと思うって、あっ下妻さんにもこの話、聞いてもらったんだが、これは下妻さんの意見だ。」
夏美は、智里の様子をもう一度思い浮かべる。ニャンキットを入れることを誰かに強要されている、っていうのが一番ピンとくる。その智里に無理強いさせている人物は、智里が見つけてきた「誰か」が、ニャンキットを入れることがメリットになるのだろう。智里が送ってきた紹介コードは、智里自身のものでなく、その人物のものかもしれないな…。
夏美が何か考え出したのを感じた雷二郎は、黙って夏美を見守っている。その時、
「ただいま~。」
ムガが、帰ってきた。今日は人に会うとか言って、午前中から外出していた。ムガは、雷二郎が最近よく広げている白い模造紙に視線をやり、その上に置かれた夏美の携帯画面に目を留める。
「うわぁ~!ニャンキが一杯!え~と1、2、3、4、5…。いっぱいいるぅ~!」
あっさり数を数えるのを投げ出した後、
「凄いね!そんなにたくさんニャン友いるんだね。」
「何だよニャン友って…。」
「えっ?ニャン友はニャン友だよ。お友達紹介で集めたんでしょ?」
雷二郎は、おいおいといった後、
「いくらなんでも47人も友達にアプリを入れてもらうなんて無理だろ。ランダムなんじゃないか?」
「そうなの? ぼく、一回もニャンキ出たことないよ~。47匹もいるんだ~それ。」
雷二郎は、そう言えばと、
「夏美もか?」
「うん。私もニャンキ出たことないな。誰か紹介しないと、出現条件満たさないんじゃないかな?」
「誰かを紹介すればニャンキが出るのか試してみたいところだが、う~ん。」
雷二郎が腕組みをしている。そして、
「京香からの情報を待ってみてだな…。」
そう呟いた。
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