第17話 調査開始
「ふ~ん。珍しい依頼だね。ムガくん絡みじゃないなんて。どうしちゃったのよ。何か社会正義にでも目覚めたの?」
と、ここまで口にして、京香は内心しまった!と思った。雷二郎が、昔から正義感が強く、親しい人のために全力を尽くしていることを思い出したからだ。急激に、そんな雷二郎を茶化している自分が恥ずかしくなる。雷二郎もちょっとムッとした顔をしている。
「ごめんね雷二郎、からかったりして。引き受けるわ、その仕事。確か遠々野で、奈良さんの娘さんから進められたアプリだよね?」
「ああ、それだ。多分友達紹介が、何かのキーになってるとは思うんだが…。」
京香はスマホで、ニャンキットの説明を見ながら、
「一人紹介しても100ポイントか…。キャンペーンで、もう少し高いポイント付与のときもあるみたいだけど…。」
雷二郎は頷きながら、
「アプリの課金が1000円。単純に元をとろうと思ったら、10人紹介しないといけない。割に合うとは思えない。」
「そうだね。でも、アプリは壁紙を変えるだけのものでしょ。高いお金払って入れるほどの価値があるとは思えないな。」
京香の思考もここで行き止まる。あとは、ニャンキというランダムに出現するポイントを付与してくれるマスコットキャラだが…。
「ところで、雷二郎。この前、ムガのところに、不二野さんから電話が来たこと知ってる?」
「いや? 不二野さんって、この前車に乗せてくれた?」
「そう。お墓参りの帰りに何かあったらって、一応電話番号教えてたじゃない。それで、何でも不二野さんの会社のイベントにムガくんを勧誘したいみたいで。」
「ムガを? アイツをイベントに呼んで、何かメリットがあるのか?」
京香は、はぁ、とため息を付いて、
「あのねえ雷二郎。あんたがわざわざガーディアンなんかやってるのは何故? ムガくんはね、そこにいて、笑顔で手を振ってるだけで集客の役に立つのよ。」
「む、そうか。だが、俺は聞いてないぞ、そんな話。それと、不二野さんのイベントって何だ?」
「さあ? ただ、ムガくんは、すごくやる気で、スピリチュアルがたぎってきた!って…。」
「わかった。そっちは俺が確認しておく。じゃあ、頼んだぞ。」
雷二郎は、そう言うと、昼休みに落ち合っていた中庭から立ち去ろうとする。
「雷二郎!」
後ろから京香が、呼び止める。
「最近、ムガくんの家、賑やかになったね…。」
「ん? ああ、風鈴たちのことか。」
京香は視線を合わせずに、首を少し横に振りながらポツリと、
「高校生になっても、あたしは、あまり変わらない日常が、続くんだと思ってた…。あんたやムガは部活やらないって分かってたし、あたしもそうだし…。」
「…。」
「…。じゃ、ニャンキットのことは、いろいろ当たってみる。」
そう言うと京香はクルリと後ろを向いて立ち去って行く。雷二郎はしばし、その背中を見送っていたが、やがて自分も背を向けて歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます