第23話 生徒会連絡協議会

「それでは、各校の主だった行事の紹介は、終わりました。次は、共有しておいた方がいい案件について話し合います。」

テキパキと司会を進行しているのは、本日の議長となったバーソロミュー女学院の礼門咲耶である。紺一色で真ん中に十字架の白い刺繍のある制服は、この東野市では知らぬ者などいない名門女学院の証である。

礼門咲耶(れいもん さくや)は、高等部三年の生徒会長で、他校にも名が知れ渡っていた。ちなみに各校から3名が参加しているこの生徒会連絡協議会だが、公立高校は生徒会選挙が行われる多忙な時期のため、会長、副会長、書記といった三役が揃い踏みの参加となることは少ない。

今回東高からは、書記の真城と一年生が参加している。南校に至っては、一年生しか来ていないらしい。先ほどテーブルの下でこっそりチャットで話をした花月は、柏木と顔を見合わせると驚いた表情を見せた。

「事前に提出いただいた資料では、以上で議題は終了となりますが、それ以外に協議会で共有しておいた方がいい案件がありましたら、」

柏木が挙手をして発言を求める。

「南校の柏木と申します。実は本校で最近問題になっている事案があります。」

「トラブルか何かですか?」

議長の礼門が先を促す。

「はい。皆さんは、ニャンキットというアプリをご存知ですか?」

会場では、その単語が出た瞬間、様々なつぶやきが聞こえた。

「ああアレか。」「何それ?」「そうそう、聞いたぜ、アレ儲かるって。」

花月は、スムーズに司会を進めていた議長が、このざわめきをすぐ鎮めに入ると感じたのだが、ほんのちょっとだけ、自分の感覚より遅く、

「皆さん、柏木さんの次のお話を聞きましょう。」

そう礼門から提案がなされた。花月は古い付き合いの柏木が発言する中、柏木ではなく礼門の様子を窺う。先程までの毅然とした様子とは少し違って、何か動揺しているように花月には感じられたからだ。柏木の説明が続いている。

「うちの生徒間で強引な勧誘、友達紹介への誘導が目に余るようになりまして、無理矢理課金を迫られたと先生に相談する生徒が出ました。その結果学校としては、強制力はないものの、アプリの名前も伏せて、アプリ勧誘の禁止、使用に気を付けるよう注意喚起がなされました。」

ここまで一気に話した柏木は、一口ペットボトルの水を口に含むと、

「その後、聞き取り調査を学校が生徒におこなった結果、本校のニャンキット使用率は約35%、人数で言うと、180人。申告しなかった生徒もいると思われ、実際はもう少し多いはずです。」

翔洋学園の男子が柏木に質問をする。

「うちでも、生徒内では割と有名です。結局友達紹介をすると、何がメリットなんでしょうか?」

柏木は、

「複数の紹介を行うと、ニャンキというキャラクターの出現率が上がるのでは?と、考えられています。ニャンキ自体がポイントを持っていて、ニャンキの見た目やコスチュームによってポイントが違うこともわかっています。それから、自分の紹介した友達が、誰かを紹介すると、その時にもニャンキの出現率が上がっている気がするとの声があります。」

「気がする?」

「ええ、ニャンキットの開発元は出現率については回答しないと明言しており、さらに出現率について規約を破って不確かな情報を流す者には法的態度も辞さないと。」

また、少し会場がざわつく。

「付け加えますと、ニャンキットのアプリ開発元、登録会社は海外のため、問い合わせもしにくく、トラブルへの対処が遅いという書き込みが見られます。」

その後も多少の質疑応答が続いたが、閉会の時間も近づいた頃、議長の礼門がまとめに入る。

「それでは、各校もこのアプリのことについて、学校側に情報を提供して、生徒間のトラブルに繋がりやすいことに留意するよう注意喚起を促しましょう。では、これで連絡協議会を閉会といたします。」

最後まで議長の方へ視線を向けていた花月のところに柏木がやってくる。ただ、花月は礼門を見続けていたので、真城先輩が、

「おい、花月。お客さんだぞ!」

と声を掛けてくれるまで気が付かなかった。

「や、花月、元気?」

柏木がすぐ目の前まで来ていた。

「麗々…。」

「何だあ?心ここにあらずって感じだな。私の華々しい活躍を見てなかったんじゃないだろうな。」

「わたくし、バーソロの議長さんが素敵すぎて、ずっと見てましたの、司会進行の手際の良さ、頭の回転の速さ…。」

「お前、まさか本当に私のニャンキット報告見てなかったのか!ひどい友人だな。」

「麗々ちゃんは、どう思いました?ニャンキットの話になってから、すごく議長の様子が変わったような…。」

「相変わらずの失礼さと、人の話を聞かないところ。私じゃなきゃ、とっくに友人辞めてると思うぞ花月。でも、その興味をもったことにグイグイいくとこと、実は優しいというギャップがたまらんのだよお前は。で、礼門議長だったな…。」

そう言って柏木も先程の議会の様子を思い出す。だが、

「どうだろう。自分は発言に夢中だったからな。議長、変だったか? ただ、関係あるかどうかは知らんけど、実は、うちのニャンキットの聞き取り調査の時に、SNSでバーソロの娘に勧誘されたって例が何件かあったな。しかも揃いも揃って男子ばかり。ほんっと名門女子に声掛けらるとコロッといっちゃうんだから情けない限りだよ。」 

「そうなんだ…。あっ!」

急に花月が何かを思い出したかのように声を上げると、

「そういえば麗々ちゃん。一年生なのにあんなに堂々と発言して、カッコよかった…。素敵ですことよ。」

柏木は、両手を横に開いて掌を上に向けると、

「ほら、コレだ。急に優しいんですよ、この娘は。もうたまらん!」

そう言って、まだ座っている花月の頭を後ろからハグする。

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