第20話 調査続行中

「うん。ありがとね。」

E組の子と別れた京香は、これで五人と呟くと、さっきの子を紹介したという2年生の教室へ向かう。さすがの京香といえども、上級生に話をしに行くのは緊張を伴う。2年C組の教室を覗き込んで、誰かに声を掛けて、白嶺という先輩が、どの人なのかを聞こうと思っていたところ、教室の中に1年生の赤色のネクタイが紛れているのに目がいった。

(F組の花月綾音さん、あと男子二人はB組の子と確か…。)

花月の方も、京香に気がついたようで、話していた先輩に断りを入れると、教室の中を覗いている京香の方へやって来た。

「あら、時屋さん。今度は2年生にも範囲を広げるのかしら? そろそろ期末試験ですものね…。」

「いやあ、花月さん。どもです。今日はソレではなくて、人を探してまして。」

「あら、そうなの。どなたをお探し?」

「白峰さんって女の人なんだけど…。」

花月は首をかしげ、ちょっと待っててね、と言ったあと、先程話していた先輩のとことに行き何やら会話をしている。おそらく京香の探し人を尋ねてくれてるのだろう。

(花月さんって、何となくお高く止まってるイメージだったけど、意外と親切なんだな…。)

京香が、そんなことを考えていると、花月がまたやって来る。

「あちらの三人グループの中の、ショートの方だそうよ。」

「あ、ありがとう花月さん。」

京香がお礼の意味でぺこりと頭を下げると、

「ところで、時屋さん。あなた、今学期末の生徒会の会長選、どなたに投票するか、もう決めてますの?」

「え、まだだけど…。」

「だったらぜひ、C組の真城さんに入れてみませんこと。今は生徒会の書記をされてるんですけど、さっきわたくしが話していたあの男性の方です。」

そう言って視線をそちらに誘導する。1年生の男子二人を相手に何やら話している先輩に目がいく。どうしても生徒会という単語がイメージを作り上げているのか、頭の良さそうな理知的な顔に見えてしまう。そう、なかなかの眼鏡イケメン。特に前情報はなかったが勘で、

「花月さんたちは、もしかして生徒会に所属してるんですか?」

「ええ、微力ながら、お手伝いさせて貰っておりますわ。選挙の準備が忙しくてね、昼休みもこうして相談に来ているの。」

「そうなんだ。分かった。投票のときは、必ずあなたの言葉を考慮するわ。」

京香の言葉に満足したのか、花月は優しい笑顔を作ると、

「よろしくね。」

と言って、また話し合いをしている方へ戻っていった。京香はそれを見送ると、さて、と自分に気合いを入れ白峰という女子の方へ向かう。自分たちに近づいてきた京香に気がついた3人組は、皆一斉に京香に視線を送る。

(うへっ、さすがに緊張する。でも気合いよ!)

「あ、あの1年D組の時屋って言います。白峰さんにちょっと聞きたいことがあって…。」

「あたしが白峰よ。1年生さんが何かしら?」

「え~とE組の斎藤さんから、ニャンキット紹介してくれたのが白峰さんだって聞いたものですから。あの、今私ちょっとニャンキットのこと調べてて…。」

「何それ。あたしが紹介したのが気に入らないのかしら?」

白峰の口調がイラだったものに変化したのを感じた京香は、話が悪い方に向かいそうな予感がして嫌な汗が浮かんでくる。

「いえ、そういう訳ではなくて…。ネットで調べてもニャンキの出現パターンがよく分からなくて、詳しい人がいないかなって…。」

「ふ~ん、そう。あんたまだ初心者ね。悪いけどお断りよ。まだまだうちの学校は未開拓みたいだからね。同業に食い荒らされると困るのよ。」

白峰の不機嫌を感じた友人たちも、京香に厳しい視線を送っている。先程からのイヤな汗が止まらない。雷二郎のためにも、もう少し情報が欲しいところだったが、ここは身を引くのが賢明であろう。

「ごめんなさい。軽率でした。お時間を取ってしまい申し訳ありません。」

平謝りで3人組から離れると、急ぎ足で教室を出ようと入口へ向かう。ふと視野の端に花月が目に入る。京香の方を見ているようだった。だが、とても居づらいこの場所から、一刻も早く立ち去りたい京香は、花月の視線に気が付かなかったふりをして退出する。

「怖い思いをして、収穫は無しか…。」

気落ちした京香はトボトボと1年生の階へと、階段を降りていく。実は、けっして収穫が無かった訳ではないのだが、この時点では京香には、それが分かるはずもなかった…。


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