第14話 イベントの停滞した双子姉妹2

 明日佳ビルディングの九階には、有名占い師たちが営業する占いの館の他に、素人が無料で占いをするスペースも設けられていた。前回来た時と同様、一番右のテーブルで小説を読んでいる、若い占い師の姿を確認した風鈴姉妹は、一旦歩みを止め、相談を開始する。

「この前、恋愛占いは、しないってのを無理にお願いした訳だけど、今回はお互いを知っていることだし…。どうなるのかな?」

確かに気の強そうな雷二郎の妹さんのことだ。また、お断りよ!と言われる気もしなくはない。

「野々ちゃん、私たちが文句を言うような客じゃないって、明日佳さんも分かってるはずだから、きっと占ってくれるよ。」

若い占い師が、こちらに気付いたようだ。視線をこちらに向けじっと見つめている。

「行こう!」

寿々葉が、妹の手を引いて占い師の前まで進んでいく。


「こんにちは、明日佳さん。この間はどうも。」

寿々葉が、先に声をかける。野々葉も軽く礼をする。若い占い師は、

「私の方こそ。野々葉さん、東高の制服を貸してもらって…。おかげ様で兄の引きつった顔や楽しい出し物を見ることができたわ。」

そう野々葉に話し掛けた明日香は、今度は寿々葉の方を向いて

「寿々葉さんも、私のアドバイス、少しは考えてくれたかな? ひょっとして、またお兄ちゃんの彼女になる審査を受けに来たのかしら?」

先日、雷二郎に告白したい人あつまれ~!というイベントが、ムガによって仕組まれて行われたのだが、その時「真のガーディアン」を名乗って雷二郎の恋人候補を見極める役を買って出たのが、今ここに座る中学生、雷二郎の妹、明日佳であった。


 明日佳は、小説に栞を入れてたたむと、きちんと寿々葉に正対する。

「だとしたら、不合格よ。まだ、あれから何かが変わったようには見えないから。」

寿々葉は、首を横に振って、

「いえ、今日は単純に占ってもらおうと思っただけです。」

と明日佳の言葉をやんわり否定する。明日佳は、立ち上がって、隣の空いているテーブルにある椅子を持ってきて、二人分の座席をセッティングすると、腰を下ろすよう姉妹に勧めた。二人は、明日佳と向き合って座る。


「二人まとめてって訳にはいかないかな?」

時間の節約でも考えたのだろうか。寿々葉は、二人一緒に占いが出来ないか提案してきた。明日佳は、

「そうねえ。さすがに難しいかな。ただ双子だから星回りに関しては、そこそこ似たものがあるかもね。どちらからにします?」

寿々葉と野々葉が顔を見合わせる。野々葉が、

「今回は、お姉ちゃんからでいいんじゃない? そもそも行動を起こそうって言ったのはお姉ちゃんだし。」

野々葉の言葉に頷いた寿々葉は、

「では、私からお願いしようかしら。この夏の運勢を占ってもらえないかな? 出来れば恋愛運を頼みたいのだけれども、恋愛を占うのは、まだ禁止なのかな?」

明日佳は、スマホを見ていた顔を上げ、

「いえ、あなた方のことは、多少は理解したつもりです。それに、今回は二回目。つまり私の占いに、そこそこ信頼をおいてくれてるリピーターさん。文句を言ったり、恨み言を言ったりしないってのは分かってるわ。恋愛占い、引き受けましょう。」

そう言うと、準備が整ったのだろう。

「はじめるわよ。まずは、生年月日からよ。」


 寿々葉と、いくつかのやり取りを終えた明日佳は、スマホを操作しながら、何かを確認しているようだ。寿々葉は、じっと占いの結果を待っている。やがて、画面から目を離し、寿々葉の方を見た明日佳が、

「はっきり言うわ。思わしくないわね。このままでは、夏に誰かの運命と交差することは無いわ。つまり、意中の人と何かが進展することはない。」

寿々葉ではなく、隣にいる野々葉が、

「そ、そんな!」

と声を上げる。明日佳は、

「ごめんなさいね。これが、私の占いのスタイルなの。取り繕った言葉に変えてほしいのなら、他を当たった方がいいわ。」

黙ったままであった寿々葉が、

「私の行動次第で、運命を変えることは出来ないかしら?」

明日佳は、

「星の巡りは変えられないけれど、軌道は行動で多少変えることが出来る。そうね、言い方を変えれば、運命が交わることはないけれど、ニアミス、近くを通ることが出来る。その時に、もし何かしらのハプニングが起これば、近くにいる分、気付いてもらえる可能性は高まる。」

野々葉は、運命が交わらないという言葉を聞いて悲しい顔をしているが、寿々葉は、何か納得したように頷くと、

「もともと、何もしないで、幸運が飛び込んでくるなんて、考えてはいなかったわ。自分の行動で、自分の星の軌道を変えてみたい。」

明日佳は、

「あなたのそういう真っ直ぐなところ、素敵だな。あ、これは占いではなく、私の意見です。」

寿々葉は、少し顔を赤らめ、

「何かラッキーアイテムというか、手助けになるワードというか、そういうものがもしあるなら、それを占って欲しいんだけど。」

明日佳は頷くと、ちょっと待っててねと言いながら、スマホを操作し、

「アイテムは楽器。ワードはセンセイね…。」


 その後で、野々葉も同じように占ってもらい、ほぼ似たような結果となった。つまり、このままでは、夏に意中の人の運命と交わることがないと…。占った明日佳自身も双子だとこんなに似たような結果になるのか…と驚いていた。ラッキーアイテムは、野々葉は、サングラスだったので、寿々葉とは、ちょっと違う結果であった。ただワードの方は、やはりセンセイであったので、双子が似たような星回りというのには納得であった。


 家に戻った二人は、さっそく占いのラッキーアイテムや、キーワードについて談議を始めている。

「野々ちゃん、昔ピアノ習おうとしていたことあったよね?」

「あ~、アレかあ。きっかけは、何だったかなあ。急にやりたくなっちゃったんだよねえ。」

「今は、どうなの?」

「そうだねえ。ま、興味が全く無いわけじゃないけど…。でも私のラッキーアイテムはサングラスだよ。楽器はお姉ちゃんでしょ!」

「う~ん、そうなんだけど。二人一緒に始めた方が楽しいかなって。私は、あんまし楽器に興味が無いから、もし、野々ちゃんがピアノやりたいなら一緒にいいかなって。」

「お姉ちゃん、でもさ、ピアノはハードル高いよ。そもそもピアノ買ってなんて言ったら、お母さんたちビックリしちゃうよ。」

「そうだよねえ…。難しいかもね。他に楽器と言えば…。」

その時、何となく頭の中に単音で奏でるギターのフレーズが思い出された。そう、Happy Birthday Song♪が。野々葉にも思い浮かんだのであろうか、ほぼ二人同時に、

「ギター!」「ムガくん!」

そう叫んでいた。





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