第13話 イベントの停滞した双子姉妹
私は、風鈴寿々葉(ふうりん すずは)。東野市にある東野東高校に通う一年生。下から読んでも東野東だなって気が付いたときクスッと笑ったのは何時のことだったっけ? そう、あっという間に入学してから3ヶ月が過ぎようとしている。
私の特徴といえば「双子であること」だ。それだけで、どれだけ救われたことか。人に話しかけるのが苦手だった私は、双子なんだねって話掛けられることが多かった。それだけでも、誰かとお話できるきっかけを貰えたって感謝。それだけじゃないよ。明るい妹の野々葉がいつも側にいてくれて、退屈もしなかったし、何より心強かった。一人にならなくて済んだの。
だから、高校入学直前に野々葉から、高校では出来るだけ別々に生活しよう。登下校も別にしよう!と言われたときには、とても驚いたし、高校で上手くやっていけるのか不安に襲われた。ただ、野々葉も野々葉なりに、考えた末での提案だったと思うし、断ることは考えなかった。そう、自分でも分かっていたのだ。もっといろんな人とコミュニケーションを取って仲良くなりたいって、心の中で自分が望んでいることを。
私は入学初日から勇気を出して、新しくクラスメイトになった人たちに、まずは自分から挨拶しようって決めて実行した。同じ中学だった沢尻さんは、私の変容に驚いたかもしれないが、何日かたったころ、
「寿々葉ちゃん、高校に入ってから変わろうって、頑張ってるんだね! 応援するよ。仲良くしようね。」
って言ってくれた。その日は、嬉しくて嬉しくて、心が舞い上がったのを覚えている。その日以降は、もっともっと張り切ってみんなに声を掛けるようになったな。
でも…。1週間たっても、まだ声を掛けられないクラスメイトが一人だけいた。そう、窓側の一番後ろの席、つまり私の隣の隣の席にいる、目付きの悪い金髪の怖そうな男の子。名前は、竜神雷二郎。クラスのみんなも同じような感じで、積極的に声を掛けようとはしていなかった。ただ、金髪の男の子といつも一緒にいる爽やか系の天城霞くんは、とても人当たりが良くて、既にファンの女子が出来つつあった。ある日、二人の言葉が耳に入ってきた。
「雷ちゃん、さっきの倫理の時間、寝てたときヨダレ垂れてたよ。」
「なっ!マジか!」
「うん。しかも垂れたヨダレで机に湖が出来てたよ。浜名湖ぐらいの。」
「は、浜名湖!」
その時の竜神くんの顔は、照れているのか少し赤らんでいて、眼差しも少年のようだったな。
「ん? ちょっと待てムガ。だったらその湖はどうなったんだ! 干からびたのか?起きた時にそんなもんは。お前!」
「ひぇ~雷ちゃんごめんなさ〜い。でもヨダレはホントだからね〜。」
天城霞くんが逃亡する。一瞬追いかけようかと立ち上がった竜神くんと目が合った。竜神くんは、目を逸らして、
「お前からもヨダレが見えたか?」
と、尋ねてきた。私は、
「さあ、どうだったかな。」
ホントはヨダレなんか見ていないのに、何故かそんな風に答えてしまった。
その日、私は、この金髪の男の子は、決して怖い危険な人ではないと確信した。
「おはよう!竜神くん。」
私は、昨日家に帰ってから決意した、竜神くんにも声を掛けてみよう!という行為を実践してみた。一瞬意外そうな顔をした竜神くんだったが、
「ああ、風鈴。おはよう。」
やはり彼は、挨拶とかできる普通の子だった。私の行為を見ていたからという訳ではないだろうけど、その頃からクラスの人たちも竜神くんと普通に接していく。つまり怖い人じゃないから普通にイジったり、何かに誘ったりね。
そして時は過ぎ、私は彼の事を好きになってしまっていた。怖いと思っていた反動なのだろうか? 話しかけることができるようになってからは、彼と話すことが、とても楽しみで楽しくて…。
だって竜神くん、物事を常に冷静に捉えていて、私が意見をしたら「お前が正しい。」とか認めてくれたり、否定するにしても、きちんと理由を説明してくれたり。何というか、しっくりくるの。曲がったことが嫌いなんだと思うし、それが私がの生き方とも似ている。二人は一心同体!な~んて、勝手に思っちゃったりして。
そして、私は告白紛いのこともした。ムガくんが、恋の門番を自分もやりたいからって、私の机に手紙を入れていたの。
「今日の放課後、オレは誰と付き合うか決めるつもりだ。もしその気があるのなら屋上に来てくれ。オレのことに興味がないなら来なくていい。 雷二郎」
私は居ても立ってもいられなくなった。D組の可愛い娘、京香さんが、竜神くんの幼馴染みだって知ってたし。ただの幼馴染みじゃない、京香さんも竜神くんのことが好きだって、直感、いえ、女の勘がそう囁いて…。竜神を獲られたくない! 私だって彼のことが好きなの!
「負けませんわ!」
私はそう呟くと、足が勝手に屋上へ向かっていた。
その後の事は、予想外だらけ、京香さん以外にも、入学早々に話題になった風北夏美さんや、占いの館にいた中学生占い師の娘まで! しかも、その娘は、竜神くんの妹さん! 何やかんやで竜神くんを好きな娘がたくさんいるんだなって…。結局、竜神くんは、誰も選ばなかったし、私たちは、それぞれ妹さんにダメ出しをされて…。
で、間もなく夏休み。これといって、進展も予定も無し。このままではイケない。このままでは!
「という訳で、野々ちゃん。行動開始よ!」
「へ?」
急に姉に話しかけられた野々葉が、間抜けな返事をする。
「お姉ちゃん、突然どうしたの? 何が、ということで、なのか、サッパリ分からないよ?」
部屋でお互い何をするでもなくお菓子を食べたり、ラノベを読んだりしていたので、脈絡の無い話には当然付いていけるはずもない。寿々葉は、構わず宣言する。
「この夏を有意義に過ごすために、今から行動するのよ!」
「お姉ちゃん、いつからそんな元気一杯キャラになったのかなあ…。」
野々葉は不思議そうな目で姉を見つめた。
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