第11話 待ち受け画面
パンを焼き終わったので、朝食を取りはじめている四人であったが、食べ盛りの男子たちは、パンをまた焼いたり、牛乳をつぎ足したり、しょっちゅう台所と行き来している。夏美が先程の明日佳の電話の中で気になった点ついて尋ねている。
「式根興業って、明日佳ビルディングの…。」
「そうだよう。あのでっかいビルの。夏美ちゃんに言ってなかったっけ?」
トーストの3枚目に入ったムガが、自分のことのように自慢する。
「そんな話聞いてなかったよ。そうか…。明日佳さんってあのビルの名前の…。東野市のちょっとした有名人だよね。」
明日佳は、しかめ面をして、
「ビルの名前が変わったのは、私が幼稚園のときだったから、自分の名前のビルがあるんだあ。ぐらいにしか思ってなかったわ。でも、だんだん年齢が上がってくると、そういう風に思われちゃうってことが、分かるようになって、イヤだなって…。今じゃもう、諦めの境地なんで、何言われても、気にしないことにしているわ。」
席を外していた雷二郎が、ヨーグルトを人数分持ってくる。
「それにしても明日佳。お前は年下なんだから、もう少し夏美や俺たちに丁寧に接しろよな。何だよ、さっきの夏美の実家への電話は。夏美!とか呼び捨てにしちゃって。」
「ああ、もう罪人たちがうるさいわね! 文句があるんだったら、異性を無断で外泊させたって学校にチクっちゃうからね!」
ムガが青い顔をして、
「ひえ~それだけは、ご勘弁を~♪」
と、いつの間にか持ってきたギターのメロディーにのせて歌い出す。今の歌詞よくない?と独り言を言うものの「良く無い」と全員に否定される。
「そういえばさ~。夏美ちゃん、待ち受けとかの壁紙変えたんだね。さっき明日佳ちゃんが使ってるとき見えたんだけど、前はボルダリングの写真だった。」
夏美は、口に咥えていたヨーグルトのスプーンを抜きながら、
「そうなの。友達から紹介されたアプリが、壁紙変えるやつだったんだ。課金もしたから、使わないともったいないかと思って、ちょっと気分転換にね。」
そう言って、ムガに携帯の待ち受け画面を見せる。銀色の竜と騎士のような出で立ちの青年、その隣には少女というファンタジーっぽい世界観のイラストだった。とても細かい部分まで描写されていて、銀色や光沢まで見事に表現した見る者を惹きつけるイラストだった。
「まあ、壁紙は、いろいろあるんだけど、このアプリでは、ダウンロード数が一番多いTONERYって子のイラストなんだ。」
「上手だよねえ…。スピリチャル、感じるよ~!あれ、今、子って言わなかった夏美ちゃん? 大人じゃないのこれ描いたの。」
「そう、プロフィールが載ってて、そうそう、同い年で、それと静岡出身なんだよね。それもポイント高いかなあって。」
「へぇ~、プロフィール見せてもらってもいい?」
明日佳が、そう夏美に頼むといくつかの操作の後、夏美は明日佳に手渡してくれた。
「そうだね。この生年月日だと、お兄ちゃんたちと同じ年代だ。高校生って名乗ってるね。こんな細かい絵が描けるなんてすごいなあ。美術部とかかなあ。」
アートについて皆が話しているのに、一人だけ別の観点で雷二郎が話に割り込んできた。
「夏美、課金は、ひょっとしてお友達に頼まれたんじゃないか?」
「え、そうだけど。どうして?」
そもそもこの手の壁紙を変えるようなアプリは、無料のものが多く、気に入った人たちが更に何らかのプラスアルファを求めて課金するというパターンが多いはずだが、最近アプリを入れたばかりの夏美が最初っから課金しているという点に雷二郎は疑問を持ったようだ。
「ごめんね夏美さん。お兄ちゃんは、やたらお金のことに細かくて。幻滅しちゃっていいからね。」
雷二郎は、明日佳の苦言は聞き流し、更に質問を続ける。
「あと、夏美。もしかしたら、友達紹介すれば元が取れるとか何とかって言われなかったか?」
「あれ、センセイ、詳しいねえ。私は、何だか課金させちゃうのは悪いかなって思っちゃうから、特に友達紹介機能は使わないつもりだけど、このアプリのこと知ってるの?」
「いや、前にちょっとな…。ムガは覚えてないか? 奈良さんの娘さんが、お前に勧めてきたアプリのこと。」
遠々野に行ったとき、工房にいた楓という子が、似たような話をしていたのを雷二郎は覚えていたのでムガに話を振ったのだが、
「そうだっけえ? 雷ちゃんと京香ちゃんが、アプリ入れるの止めるから忘れちゃったよ~。」
雷二郎は少しがっかりした様子を見せ、また夏美の方を向き、
「それで夏美、そのアプリの名前は。」
「え~とね。ニャンキットだよ。」
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