第9話 キラー始動

 あたしはまず、はるたんを探している生徒を見つけることにした。

 愚地おろちは、後で相手をしてやる。時間がかかりそうだし。


『モモ、三階に三人いる』


 はるたんの使い魔である太ったコウモリが、上空からあたしに声をかけてきた。


 あちこちに使い魔を出すことで、はるたんは状況を把握しているのだ。本人は、別の場所に隠れている。



「いたいた。どうしよっか?」


『普通に無力化でいいんじゃない?』


「だな。そりゃっ」


 あたしは【忍び足】スキルで、近づいていく。三人一気に、みぞおちに腹パンを食らわせた。気絶させた生徒を、一人ずつダンジョンの【座敷牢】に運ぶ。



 倒した挑戦者をしまっておく場所を、座敷牢という。ここに入れられた挑戦者は、数分間身動きが取れない。一定時間が過ぎると、再びダンジョンの探索が可能になる。


 学校で座敷牢といえば、【保健室】だ。

 巳柳みやなぎの生徒を一人ずつ、保健室までひきずっていく。当分はここで、おとなしくしてもらおうか。


 最後の一人を運んでいるところで、別行動を取っていたらしき相手生徒に見つかった。


 相手は、保健室にダッシュしてくるだろう。仲間を助けるため。玄室に入れられた生徒は、生存している挑戦者に【治療】をしてもらうことで、クールタイムを短縮できる。


 おそらく愚地も、保健室にダッシュしてくるだろう。

 そこで、一網打尽にするか?


 挑戦者のリーダーは、力も強くて、戦っても勝手に回復する。その代わりに、倒されたら復活できない。


 キラーと同等の力を持っているのだ。


 とはいえ、強さまで同じとは限らないが。


 愚地を待つか、挑戦者を追うか。


 考えているより前に、床がぶち抜かれた。紫の拳を突き上げて、愚地があたしを攻撃してきたのだ。


「くっそ、外しちまった。けど……」


 愚地の手には、ナイフが握られている。その刀身は、毒々しく濁っていた。


 あたしの視界が、二重になってくる。


 毒か。


 油断した。


「おめえらは、さっさと治療して、金盞花きんせんかを探せ!」


 愚地が、部下たちに指示を送る。

 

「コイツは、わたくしがやる!」


 ニィ、と、愚地が笑う。このときを、待っていたかのように。


「いくらリーダー格といっても、キラー相手に一人で勝てると思ってんのか?」


「勝てるさ。このレアアイテムがあれば、キラーなんて恐るるに足りん!」


 愚地が、毒ナイフを振り回す。徒手空拳にも長けているのか、体さばきがカンフーじみていた。どれも舞踊やアクション映画のような、「魅せる」技じゃない。本格的に倒しにかかっている、実践的な技だ。


 一方、こちらは毒が回って、徐々に視界が悪くなっていく。もう愚地の動きが、ぼんやりとしか見えない。

 ドラゴンキラーで短刀を受け止めているが、カンでさばいているだけだ。


「一年のくせに、やるようだな! さすが、冒険者の腹を満たしてきた町中華の看板娘だけあるぜ! わたくしが一年のときは、ここまでできる相手はいなかったよ!」


 愚地は、たわみとフェイント、インパクトを巧みに織り交ぜている。それこそ、ヘビのように。


「もういっちょ!」


 さらに、愚地はもう一本の毒ナイフを手にした。二刀流か。まさしく、ヘビの牙を思わせる攻撃に変化する。


「うーん。動きは間違いない。本物だな」


「そうだ。わたくしはいつか、金盞花グループのダンジョンをすべて制覇するのだ。この愚地こそ、ラミア族こそ最強であると証明する!」


 こいつにも、プロとしてのプライドがあるのか。


 それゆえに、御しやすい!


「とどめ!」


 愚地が跳躍する。牙のように、二振りのナイフを突き下ろしてきた。


「ウゥウェインド・カアァッタ!」


 巻き込み式の左回し蹴りで、ナイフを二本とも弾き飛ばす。


「なあ!?」


「伊達にダンジョン、出禁になってねえんだよ!」


 あたしは左足のカカトで、愚地の首を抱え込む。


 愚地のアゴを、右足の足刀で蹴り上げた。


 力尽きて、愚地がダウンする。


「さて、後は残った生徒を片付けるか」


 後は、すぐに終わった。

 

 巳柳高校の生徒を、あたし一人で全滅させる。


[ゲームセット。勝者、金盞花高校です]

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る