第8話 ダンジョン部、本格始動 

「オメーら三人は魔王の探索! もう片方は、わたくしと来い! 魔法陣をぶっ潰す! 者共、いけえええええ!」


 愚地おろちが、チームメイトに指示を出す。


 Aチームは、一階ではるたんを探しに。


 残ったBチームは、ダンジョンに点在する魔法陣を破壊しに向かった。


 あたしは、スマホで相手の状況を確認しつつ、待機である。家庭科室に入って、みんなの分の軽食を作ることにした。


『モモ、今どこ?』


 野菜を切っていると、はるたんから連絡が入る。


「調理場。今はチャーハン作ってる」


 持ってきた中華鍋に具材を入れて、豪快に振った。


 家庭科室では、調理中に鍋を振らないほうがいい。家庭の火レベルでは、すぐに鍋の鉄板が冷めてしまうからだ。


 あたしは自前の魔法で、家庭科室の火力を上げている。さすが寂れても、元は魔法科学校だっただけはあるな。あたし程度の魔法なんて、軽くいなしている。


『音からして、おいしそうだね』


「おうよ。うまいぞ。オヤジ直伝だからな」

 

『あんたは料理ができていいよねえ。といっても、もうそろそろキラーの出番じゃない?』


「お前、まだ見つかりそうにないだろ?」


 もうしばらく、ほうっておいてもいいかなと。 

 

 ダンジョンにおいて、ラスボスは【キラー】と呼ばれている。ダンジョンにおける戦力の要であり、同時にダンジョン脱出用のカギだ。


『ウチが配置したグリフォンくんが、負けそうなんだけど』 


 はるたんがそういうので、あたしも学校指定のタブレットを出す。愚地おろちの戦いぶりを、料理をしつつチェックした。


 巳柳みやなぎ高校の生徒が、ペンギンのきぐるみみたいな魔物と戦っている。

 

 愚地おろちは部下にスマホを任せ、攻略法に従って魔物をシバいていた。


 控えめに言っても、ダンジョンに召喚される魔物は、ぶっちゃけ弱い。アルゴリズムが固定化されていて、どうしても対策されてしまう。攻略法まで、高値で取引されている。


『グリフォンくんって、コストの割にいい仕事するから、ダンジョン防衛にはうってつけだって思ったんだけど』


「短足の割に、足が速いしなー」


 それでも、対策されては意味がない。


 結局、自慢の足を活かすことなく、グリフォンくんは消滅した。

 

 やはり対人戦には、生身の人間を配置する方がいいか。


『そろそろ、用意しておいたほうがいいんじゃない?』


 キラー担当は基本、アウェー側が探索をしている間、一分以上は待機していなければならない。その間、なにをしても自由だ。対戦相手に、近づきさえしなければ。


 とはいえ、制限時間の一時間もかからずパーティを全滅させられる実力が必要とされている。


 あたしもダンジョンに潜っては、何度もキラーを倒してきた。

 

 まさか、自分が守る側に立つなんて、思っていなかったけど。

 

『ランチェスター戦略は、使わないみたいだね』


 戦力を一箇所に集めてチェックポイントを各個撃破することを、『ランチェスター戦略』という。ダンジョンにおける、基本的な戦闘方法だ。つまり全員が一丸となって、散り散りになっているホーム側の戦力を削ぐのである。


 しかし愚地率いる巳柳みやなぎ高校は、自分たちも戦力を分散していた。


 かなり腕に自身のある学校と、見える。


『こっちに来た。足音がする。二つ目の魔法陣も、突破されたっぽい』


「わかった。ちょっくら、相手してくるわー」

 

 あたしはチャーハンの乗った皿にラップを貼り終えて、エプロンを取る。

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