第21話 トライ × 4 !
入り口の門から入ってすぐ、緑の壁に咲く花が赤いことに気づいた。
「正しい道に正しいタイミングで入ると、花の色が変わるみたいね」
「合っているかどうかの目安になるな」
迷宮を進んでいくと、一つ目の分かれ道に出た。
鳥と虫と果物の石像がある。
道は変わっていたが、問題は同じだった。
英雄マグマトランが川を渡って三種類の土産を持っていく問題だ。
正しい道は、『虫』の道だ。
「むし座……でいいのか?」
「待って、すごい、ずばりアンドロボレアリス座がある」
巨大カブトムシ、アンドロボレアリス・オオツノカブトはこの世界では有名なようだ。ここに実在するかどうか知らないが、人気の高い虫なのだろうか。
問題ではオスメス合わせてトリオ三匹だった。だから星座が三の方角のときに行かなければならない。
二人がタイミングを見計らって道を進むと、緑の壁に咲く花の色が青になっていた。
「よし」
また迷宮の道は変化していたが、次の分かれ道の問題も同じだった。
道の手前に、見たことのある美少年の石像が決めポーズをしている。
「ここの答えは『2』、さっき来たときみたいにうさぎ座が四の方角のときに行こう」
『お二人さま、ご案内〜』
緑の壁に咲く小さな花の色は、青から橙に変わった。
次の分かれ道には、あられもない格好のヘビ頭の女性像が四体、立っていた。
「今度こそ、へび座を探そう。四体の分身……じゃないな、九匹のヘビが頭に生えた魔女だから、へび座が九の方角のとき入る」
「四じゃダメなの?」
「これは問題と関係のない数字でなくてはいけない。四は分身の数で選択肢になっている。だから四じゃなくて、頭に生えたヘビの数のほうだと思う」
「なる……ほどね。なくても問題自体には影響のない数字ってことね」
「そう」
「わかったわ。えっと、へび座は一等星が胸部にあるわ。二連星の一等星、ソーミュ。あら、へび座の全体像はとぐろを巻いた形なのね」
へび座が九の方角のときに、右から二番目の道に向かった。
花の色は紫色になった。
「順調すぎて恐いな」
また緑の壁に囲まれた迷宮を歩く。
やがて道の前に時計の石像が現れた。
石碑の問題は変わらない。
『『
ねこ族の双子の王子、チータカとタッタ。
主神が王妃に通ってできた、神の血を引く双子の兄弟。
隣国との戦のとき、双子は闇夜に敵陣へ忍び込み、二人の捕虜を助け出した。
捕虜を連れて逃げる双子の王子。
つり橋を渡れば、味方の陣地だ!
しかし、つり橋は頼りないほどボロボロで、二人で渡るのがギリギリ。
おまけに手持ちのランタンがもう消えそう。
チータカは時計を見た。
ヤバイぞ、早く渡らなきゃ、追っ手が来る。
それにランタンが消えたら、危なくてつり橋なんて渡れない。
タッタは時計を指差し、捕虜に聞く。
おまえら、何分で橋を渡れる?
度胸と足の速さには個人差がある。
二人の捕虜は答えた。
『5分』
『10分』
チータカは「こんな橋、『1分』で渡れる」
タッタは「自分は『2分』だ」
全員が渡るのに、一番短い時間は何分!?
』』
「答えは17分でいいはずだ。今度は……ねこ座だな。双子のネコ族だから二の方角だ」
「ねこ座、あるわ」
時計の針を17にセットし、ねこ座が二の方角に入ったときを見計らって、二人は道を進んでいった。
「見て、今度は黒色の花よ」
「うまくいってるな。次は初めての問題だ。ようやく先に行ける」
「こんな問題出すなんて、『星空の魔女』ってどんなやつなのかしら」
「案外、小さな女の子だったりしてな」
「どうしてそう思うの?」
「論理パズルは別名、『幼女問題』って言って……」
異変があった。
緑の壁に咲く花が、進むにつれて黒から黄色に変わっていくのだ。
「えっ、これ、どういうこと?」
城戸の背を冷や汗が流れた。
いやな予感がする。
道は大きくカーブして、そして開けた場所に出た。
外は涼しい夜風が吹いていた。
回り続ける満天の星。
城戸と本読はキョトンとして立ち尽くした。
「外に出された?」
「ど、どうして……」
途中まではうまくいっていたはずだ。
最後、何か間違えただろうか。
「うまく行き過ぎだな、とは思っていた。何かもう一ひねり、あるのかもしれない」
「いけそう?」
「やるよ、何度でも」
入り口の二つの門の前に立つのは、これで四度目だ。
『おおー、また失敗ガオね。さすがに少し顔に疲れが見えるガオ。大丈夫ガオン?』
『ドラ〜〜ン、一度帰って出直すドラ?』
「余計なお世話だ」
「やります」
タイミングを合わせて、二人は竜の門をくぐった。
緑の壁には、赤い花。
ここは間違えていないようだ。
「ん?」
思わず城戸は身構えた。
門を入ってすぐに、車輪付きの大きな屋台があるのだ。
赤や黄、青といった原色のぼんぼりがいくつも釣り下がり、派手な光を振り撒いている。
「なにかしら」
本読が鼻をくんくん鳴らした。
「なんか、おいしそうな匂いがする」
「ん……」
突然、二人に声がかけられた。
高くてよく通る、女性の声だった。
「よんみーのキッチンカーへようこそ! いらっしゃい、お客さん!」
「な、なに?」
屋台? キッチンカー? には誰の姿も見えない。
恐る恐る城戸が近寄ってみると、積み重ねられた小皿のそばに、コップほどの背丈の小さな女性が立っていた。
ベトナムの民族衣装アオザイに似た、上品でぴっちりした衣装を着ている。
「こんにちはー! あたいは星空の魔女プエラさまの召使い、小人の“よんみー”!! よろしくねー!」
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