第14話 エピローグ
2人で屋敷に戻る途中、見張り塔の上で休憩をした。
一番屋敷に近い、商隊も使用する大通りが通る、領地で一番高くて大きな見張り塔だ。
その屋上で、魔獣の森とレングナーの領地をしっかりと見渡し、目に焼き付ける。
「なあサラ。2人でどこかへ行かないか」
頬に当たる風が気持ちいい。
俺は生まれてから今まで、この光景しか見た事がない。
左手にどこまでも広がる魔獣の森と、右手の魔物の跋扈する辺境の地。
「どこか……とは?」
「まだ決めていない。お前がいれば、どこでもいい。魔獣の事も、領地の事も忘れて、その日の気分で、二人で行きたいところへ行くんだ」
それは実は、俺の小さい頃からの夢でもあった。
何もかも忘れて、ただ心の赴くままに、好きなところへ行って、自由に旅をすることが。
「サラ、知っているか? 商人の話では、海と呼ばれる見渡す限りの、そのずっと奥まで無限に広がっている湖があるそうだ。登るのに何日も掛かるような、ものすごく高い山や、一面の砂の世界まで」
「それはすごいですね」
サラも、うっとりとした表情で答えてくれた。
聖女でも、辺境伯でもなんでもない、ただの2人として、旅をできたらどんなにいいだろう。
――もちろんシュテファニとフォセットは一緒に連れていく。ついでにバトラーも……いや、やっぱりあいつはいらないか。
「いつか行こう。一緒に」
「はい! 行けたら素敵ですね」
「……ふふっ」
そのサラのあまりに元気な即答に、思わず笑みがこぼれる。
「シリウス様?」
「サラ。本気にしていないだろう?」
「え!……ほ、本当に……旅に出るんですか? ですが、私たちがいなくなってしまったら、領地の皆さんがお困りになってしまいます」
「うん」
サラの言葉に、素直に頷いた。
「サラは優しいな」
しみじみとそう思った。
「サラ、愛している。本当はサラと一緒ならどこにいてもいいんだ。海でも、砂漠でも、そしてこのクソみたいな、魔物の跋扈する世界でも」
「はい、シリウス様。私もです。……ではいつか、海に行ってみたいです。フォセットとシュテファニも一緒に」
「ああ、いつか行こう」
今度はサラが笑う番だった。
「本気にしていませんね? シリウス様」
「そうでもないぞ。いつか一緒に行ける日が、来るかもしれないと思っている」
サラとフォセットと一緒ならきっと、俺は世界一幸せに長生きするだろう。
「サラ、愛している」
大分暖かくなってきたけれど、塔の上の風はまだ少し冷たかった。
サラの冷えかけた肩を温めるように、しっかりと抱きしめる。
――そうだな。爺さんになったら、さすがに魔獣退治は引退させてもらおうか。そうして若いやつらに後を任せて、旅に出ているかもしれない。
年をとっても、魔獣相手に鍛えた俺なら、世界中のどこにでも行けるだろう。
ましてやサラとフォセットとシュテファニがいるのだから。
その時は、海だろうが高山だろうが砂漠だろうが、それこそどこにだって、行きたいところへ行ける。
予感がした。
そんな日が確かにくるという、そんな予感が。
嫌われ聖女は魔獣が跋扈する辺境伯領に押し付けられる kae @kae20231130
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