第6話

あの夜からいつもの生活に少し光が刺した。

決して彼女が手に入るわけじゃない。


でもあの目が欲しくて欲しくてたまらなかった。


翌週、彼女がお店にいるのを確認してから向かった。



―――――――――――――――。


『いらっしゃいませ。』


僕は蘭さんに軽く頭を下げた。


…でもこの日、一切僕に近寄ってこなかった。


(あ、嫌われたな。終わったな。)と感じた。



でも、帰り際ドアの外に彼女が出てきて僕を呼び止めた。


「また来てね。」

たった一言だけ投げられた。


「…蘭さん」

「なに?」

「俺と付き合って。」


彼女は微笑んでいた。


そして僕の目の前に来て、少し上から僕を見て頬を撫でた…。


「…ダメだって。」

「出さないで。」

「はい。。」


彼女はわかっていた。



「蘭さん。」

「なに?」

「蘭さんだけのものにしてください。」

「考えておく。」

「でも、いいです。やっぱり。俺、そんな価値ないんで。遠くから今まで通り指咥えて見てます。」

「どうして?」

「対等になる価値は無いから。」

「その価値、私が決めるとしたら?」

「…僕はずっと蘭さんの目だけ見てたい。」

「見ててあげる。」


僕はいつの間にか彼女に引き寄せられて包み込まれていた。

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