第7話 機巧少女は人気者
翌日、俺は冷たいフローリングの上ではなくベッドの上で目を覚ました。
リビングに降りると、仕事休みの母親がいて「家に帰ったらアンタが血の海に沈んでたけど何があったの?」と聞かれた。
それにより、若干朧げだった記憶が鮮明になっていく。
陶磁器のように滑らかで白い肌。
たわわに実った二つの果実。
艶めかしいへそとくびれた腰。
程よく肉のあるむっちりとした太もも。
理性ではそれが作られたものだと理解しているが、本能の方は違ったらしくまた軽く鼻から血が流れ出た。
咄嗟に俺は手の甲でそれを拭い
「っ!風呂でのぼせて倒れただけだ。顔洗ってくる」
適当な言い訳を吐いて洗面所に逃げ込んだ。
「くそっ、裸見たくらいで鼻血出すとかどこのファンタジーだよ」
とりあえず、鼻から流れる血を洗い流す。
その際、鏡に映る自分の姿は何とも情けがなかった。
血が止まったところで、タオルを片手にリビングへ戻ると既に制服を身に纏う舞姫が居た。
彼女は目が合うやいなや、すぐこちらに駆け寄ってくる。
「おはようございます、仲人」
「……おう、おはよう。舞姫」
いつも通りの挨拶。
だが、昨日のこともあって彼女を見ないようにとついつい視線が泳いでしまう。
「体調の方は大丈夫ですか?」
「あぁ、もう別に何ともねぇよ」
「そうですか。では、念の為チェックします」
俺が気まずい思いをしていると全く分かっていない舞姫は、無理矢理俺の頭を掴んだ。
「ちょっ!?」
突然のことに困惑する俺。
何とか抜け出そうとするが、華奢な見た目からは想像も出来ないほどの馬鹿力によって抑え付けられているせいで叶わない。
となれば、必然的に俺と舞姫が顔を合わせることになる。
(ヘイジョウシン、ヘイジョウシンヘイジョウシンヘイジョウシンヘイジョウシン)
昨夜見た舞姫のあられもない姿を思い出さないよう必死になっていると、彼女の瞳孔が開きその奥からカメラのような小型レンズがこちらを捉える。
(あっ)
それを見た瞬間、荒んでいた情緒が急に凪いだ。
まるで、冷や水を頭からぶっかけられたかのように。
スンッと冷静になる。
『舞姫の友達になってくれてありがとう』
その後、すぐに俺は後悔した。
「ッ!」
「どうしました?」
異変を感じ取った舞姫が疑問の声を上げる。
「……お前の馬鹿力のせいで頭蓋骨が悲鳴あげたんだよ」
俺がトントンッと腕を叩きそう訴えれば
「それは、すいません。バイタルチェックの方は終わりましたのでもう大丈夫です。結果は異常なし。健康体です」
舞姫はすぐに手を離し解放してくれた。
「そうか。ありがとな」
何とか誤魔化せたことに安堵しつつ、改めて舞姫の方を見れば瞳はいつも通りに戻っていた。
「二人ともご飯出来たわよ」
丁度良く、母親から朝食の用意を知らせを受け
「分かった」
「いつもありがとうございます。お母様」
俺と舞姫はテーブルに向かうのだった。
◇
数十分後。
朝食を終えた俺達は、自転車を使って高校に向かった。
校門の近くまで来たところで、生徒の数が増えてきた。
「おはよーう」
「おはようございます」
それに伴い、声を掛けられることが増えた。
「おはようございます、機本さん」
「おはようございます」
「おはよう、機本さん」
「おはようございます」
「ハロー、機本さん」
「Hello」
俺ではなく舞姫がだが。
まぁ、それも当然といえば当然だ。
彼女は学校一の美貌を持っているだけでなく文武両道で、誰に対してもフラットに接し困っている人を見たら絶対に放っておかない。
そんな舞姫は『氷の聖女』として多くの人間に慕われている。
「ねぇねぇ、機本さんちょっと俺達と付き合わない?奢るよ」
「お断りします。金銭の方で全く困っていませんので、貴方に付き合う理由がありません」
「……チッ。そっか〜、じゃあまた別の機会ということで。じゃあね」
「やっぱ、三指君と機本さんの並びって違和感凄いよね」
「月とスッポンって感じだよね」
「何で仲良いんだろうね?あの二人」
対して、平々凡々な俺に浴びせられるのは男の醜い嫉妬と、女子からは陰口。
慣れているとはいえ、ちょっとくるものがある。
最近思うのだが、美少女の横に平凡な男子がいるのが許せないみたいな展開があるが結構理不尽じゃね?
まず、別に美少女だからと言って美男美女とばかり交友関係を持つのなんてあり得ない。
俺みたいな奴が一人、二人いても普通だろう。
というか、正常である。
だって、普通な人間の方が世の中には多いのだから。
恋や憧れは人を盲目にさせるというが、こんな当たり前のことも分からなくさせるとは本当厄介だ。
俺は今日も溜息を吐きながら、自転車を駐輪場に止めた。
あとがき
ラブコメの美少女の隣にいる主人公のことを馬鹿にする展開って本当謎だと思います。
面白い、気に入った等々思っていただけたならフォローやコメント、レビューしていただけると助かります。
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