第6話 機巧少女は恥じらいがない


 カチャカチャ。


「舞姫、洗剤取ってくれ」

「はい、どうぞ」

「サンキュー」


 豪華な夕食を食べ終えたところで、俺は──俺達は皿洗いを行っていた。

 本当は料理を舞姫に作ってもらっているため、出来れば俺一人でやりたいところなのだが舞姫がどうしても手伝いというので仕方なくだが。

 前々から思っているが、舞姫は駄目人間製造マシーンだ。

 何かと理由をつけて俺の身の回りの世話をしようとしてくる。

 もし、今のように俺が意識的に家事をするようにしなければ、間違いなく彼女なしでは生きていけない欠陥人間になっていただろう。

 なんて恐ろしい機巧少女だ。

 危険すぎてこの世の中に解き放ってはいけない。

 解き放たれたが最後。人間は自立することを忘れ、やがて滅びてしまうだろう。

 ……まぁ、機巧少女の存在が公になったら軍事団体と宗教団体が出てきて大変になるので、絶対にされない。

 というか、そもそもあの子煩悩な舞姫の両親が許さないだろう。

 本当に娘命だからなあの人達は。


「どうしました?」


 騒がしい舞姫の両親のことを思い出していると、ちょんちょんと背中を濡れた手でつつかれる。


「いや、何でもねぇよ」


 どうやら考え事をしていて手が止まっていたらしい。

 俺はすぐ横に逸れていっていた意識を修正。

 残った洗い物を片すため、せっせと働くのだった。


 数分後。


「よし、終わった〜」


 洗い物が終わった。

 タオルで濡れた手を拭き、どうしようかと考えていると舞姫が学校の鞄をテーブルに置いているのが見える。

 鞄から数学の教科書とノートに筆記用具がテーブルの上に並べられたところを見るに、今日出された来週締め切りの課題をやるつもりらしい。

 わざわざ出されたその日にやる必要などないだろうに。

 勤勉なことだ。

 俺も一緒にやっても良いのだが、今日は色々あって精神的に疲れているのでパス。

 そろそろ両親が帰ってくる頃合いなので、風呂を用意することにした。

 風呂用洗剤を浴槽にぶちまけ、汚れをブラシとシャワーを使って落としたところで栓をして給湯開始。

 何となしに溜まっていくお湯を見ていると、これが貯まるのを一々待つのは面倒臭いという気持ちが湧き上がってくる。

 すぐさま、俺はシャワーを使うことを決めジョボジョボとお湯が出てくる音をBGMに身体の汚れを落とした。


「なっ!?」


 シャワーで全身スッキリした俺は、昨日の時点で洗面所に置いておいた寝巻きに着替えようと風呂場を出るとハプニングが起きた。


「なんで舞姫がいるんだよ!?」

「手を洗おうとしましたらハンドソープが切れていたので取りに来ました」


 そう。運悪く舞姫とかち合ってしまったのだ。

 そして、見られてしまった。

 俺の全裸をガッツリと。

 見られた。

 シャワーの音がうるさくて全く気づけなかった無能な自分が恨めしくて仕方ない。

 この気持ちを何とか発散したいが、今はとりあえずそれどころではない。


「早く出ていけ!逆のシチュエーションなら大歓迎だが、こっちは嬉しくとも何ともねぇ!出て行けーーーー!」

「すいません」


 今日一晩の大声を張り上げ、俺はすぐさま舞姫を追い出すのだった。


(最悪だ。まじ顔合わせたくねぇ)


 その後、何とか気持ちを落ちつけはしたが陰鬱な気持ちのまま俺は洗面所を後にした。

 当然の如く、寝巻きはしっかりと着て。

 いつもなら風呂上がりのジュースをかましているのだが、舞姫がいると思うと足が遠のく。

 理由は、先程見られたことを思い出すというのは勿論のことだが、一番は過去のトラウマからだ。

 実は、思春期真っ盛りの小学五年の頃にも一度同じことがあったのだ。

 その際、俺の身体を見た舞姫から



 と言われたのである。


 会心の一撃クリーンヒット


 彼女の放った一言とあの冷めた目は大いに俺を傷つけ、『友人にお前はそこそこデケェよ』と励まされても全く響かないくらいに、男の尊厳はこれ以上にない程ズタボロになった。

 あの時の傷は最近になって癒え始め、何とか最近は当時は『子供だったから仕方ない』と割り切れるようになったが、今回言わられたら本当に不味い。

 それこそ一生立ち直れないくらいにヤバい。


 ガチャ。


 俺が廊下で頭を抱え固まっていると無慈悲にもリビングのドアが開く音がした。

 壊れた人形のように、ゆっくりと首を動かすとそこには舞姫がいて目が合う。


「「…………」」


 それからどれほど時間が流れただろう。

 十秒?一分?一時間?

 全く分からないがある瞬間に、舞姫は俺から目を逸らし洗面所に入って行った。


「……助かったのか?」


 安堵感から全身の力が抜け、俺はその場で尻餅を付き思わず天井を仰ぐ。

 何故彼女は何も言わなかったのだろう?

 もしかして、ついにあの機巧少女にもデリカシーというものが芽生え、あの日の行いを反省したのだろうか?

 分からない。


「ハハッ、ハハハハハ」


 ただ、自分の口から意味不明の笑い声が口が溢れ出ていた。

 そして、声同様に何とも言えない万能感も湧き上がってくる。


 そうか。

 そうだったのか。

 俺は勝ったのか。

 あの日のトラウマに。

 彼女の予測に。

 俺の成長が。

 勝ったのだ。

 

「しゃあおらぁーーーー!」


 そう実感すると、俺は雄叫びを上げていた。

 近所迷惑も忘れて叫んでいた。

 だが、「仲人」と後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた瞬間にピタッと止めた。


(もしかして、やっぱり言いにきたのか?)


 と、嫌な考えが過ったからだ。

 俺はそんなことはあり得ないと思いつつ、恐る恐る後ろを振り向くとそこには女神がいた。

 姿

 

「なっなっなっなっななななななななななかなななななな」


 熱限界突破オーバーヒート

 俺の理解を超えた光景に脳がショートを起こす。

 

「仲人が逆のシチュエーションなら嬉しいと言っていたのでやってみたのですが、これで元気は出ましたか?」

 

 そんな別の意味で壊れた俺を置いて、女神は続けてこう言い放った。


「ぶほっ!?」


 次の瞬間、俺は鼻から熱いものが出たのを感知したかと思うと、世界が暗転した。

 




 あとがき

 ちなみに舞姫ちゃんの高校生ボディはH(色々な意味で)です。

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