第3話 機巧少女は欺けない


「待たせたな」


学校が終わり、少し経った頃俺は学校近くの公園でベンチに座っている舞姫に声を掛けた。


「いえ、一分三秒しか待っていないので問題ありません」

「そうか、じゃあ帰ろうぜ」

「はい」


 舞姫は返事をし立ち上がると、二人並んで公園を出る。何故こんなところで、待ち合わせをしているのかというと一緒に帰ると騒ぐ奴らが多いからだ。

 朝も本当はこうやってズラして行きたいが、俺がギリギリまで寝てしまう都合上起こしに来る舞姫と一緒に行かないというのは不可能だ。ゲームが時間を忘れてのめり込めるくらい面白いのが悪い。俺は悪くない不可抗力だ。


「仲人、今日の夕飯は何が食べたいですか?」

「肉が食いたい。けど、前から言ってるがわざわざ作りにこなくても良いんだぞ?そっちの家のこともあるだろ」

「いえ、問題ありません。家のことは母がやってくれていますので、それよりも仲人を放置をして乱れた食生活を送らせる方が私は嫌です」


 我が家の夕飯は何故か毎日舞姫が作ってくれている。親が帰ってくるのが遅いから俺としては助かっているのだが、放課後の殆どを我が家に縛り付けるのは心苦しい。

 だから、何度か来なくても良いと言っているのに舞姫はこう言って毎日来てくれる。

 それはAIに習慣として組み込まれたからなのか、それとも彼女の意思なのか俺は未だに分からない。


「さいですか。俺も一応料理は出来るんだけどな」

「仲人。買ってきたものを電子レンジで温めることを、料理とは言いませんよ」

「一手間加えてるんだから料理だろ」

「理解しました。やはり私が作らなければならないようですね」


 そのまま他愛もない話をしながら歩き、家の近くにあるスーパーに辿り着いた。

 俺がカートを取り出し、舞姫が買い物カゴを乗せ店に入る。学校近くにあるとはいえ、この時間のスーパーには高校生はおらず、主婦とおじさんくらいしかいない。

 その中に俺達高校生が二人。若干浮いているが、俺達がここに来るのはいつも通りなので特に視線を向けられることはない。

 

「肉が良いと言っていましたが、何のお肉が食べたいのですか?」

「ここに来るまで考えたが思い浮かばないんだよな」

「では、お肉の値段を見てこちらで決めさせてもらいますね」

「あぁ、頼む」


 人参、じゃがいも、玉ねぎ、キャベツと汎用性の高い食材をとりあえず買い物カゴに入れ、肉のコーナーに向かう。

 

「本日は、牛肉が安い日のようですね」

「あぁ、って言ってもまぁまぁ高いが」

「それは仕方のないことでしょう。ですが、普段は高くて買えないロースブロックが今日ならギリギリ手が出せますね。今夜はビーフシチューにしましょうか」

「おっ、そりゃいいな。ビーフシチューとかここ数ヶ月食ってねぇし食べたいわ」

「では、決まりですね。仲人、デミグラスソースと付け合わせにブロッコリーが欲しいので取ってきてもらっても良いですか?私はその他に必要な食材を取ってきます」

「分かった」


 舞姫と別れ、言われたものを探しに行く。たった二種類しか頼まれなかったので、直ぐに見つけることができた。合流しようと舞姫のいる方へ向かう途中、お菓子コーナーを見つけてしまい俺の足は止まった。

 

「そういや、家にある菓子昨日で全部食い尽くしたんだよな」


 明後日まで本来持つ予定だったのだが、昨日は休みで小腹が空いたらついついお菓子に手を伸ばしてしまっていた。その結果、今日明日の分がないので補充がしたいのだが、一つ問題がある。

 

「舞姫と母さんが許してくれないんだよな」


 健康に良くないからと、二人によって俺が一週間に食えるお菓子の量を制限されているのだ。

 だから、今俺がお菓子を持っていたとしても明後日まで待てと突っぱねられてしまうだろう。

 しかし、それが分かっていても食べたいと思ってしまうのが人間というよく深い生き物なのである。

 俺は一度手に持っているものを戻し、ポテチとぷちょを持ってセレブレジへ行く。

 その際に辺りを見渡すが、舞姫の姿は見えない。

 素早く会計を済ませ、鞄にしまうと俺は再び頼まれたものを持って舞姫の元へ向かった。


「少し遅かったですね、仲人」

「あぁ、悪い悪い。デミグラスソース缶だと思って取ったのが、トマトソース缶だったのに途中で気が付いて取りに戻ってたんだよ」

「そうですか。では、仲人。鞄を私に貸してください」

「へ?何でだよ」


突然、舞姫から鞄を貸すように言われ俺は内心ドキリとしたが、何事もないように平静を装い意味が分からないという顔をする。

 が、そんな演技は次の舞姫が放った一言で無駄に終わった。


「仲人が買ったお菓子を回収するためです」

「はぁ?何で分かったんだよ!舞姫は俺のこと見えてなかったはずだろ」


 そんな俺の疑問に答えるように、舞姫は頭上を指差した。俺はそれにつられるように目線を上げ、次に間抜けな声を上げた。


「あっ」

「仲人が嘘をついているのは心拍数の上昇で分かっていましたから、防犯カメラのデータを拝借させてもらいました。ですので、仲人の行動は私には全て筒抜けです。明後日には返すので大人しく渡してください。でないと、少々痛い目に遭わせますよ?仲人」


 冷めた目で指をくねらせる舞姫。

 それ見た瞬間、俺の脳裏に少し前に舞姫から激痛足ツボマッサージをされた記憶が過る。

 あれは本当にヤバい。

 どれくらいヤバいかと言うと、幼少期に亡くなった曾祖母ちゃんが三途の川で手を振っているのが見えるくらい。

 あんなものをもう一度受けたら、今度こそ曾祖母ちゃんの方に間違いなく行ってしまうだろう。


「はい、ごめんなさい。素直に渡すので許してください舞姫さん」


 そんなわけで、俺は舞姫の脅しに即屈服。

 素直に頭を下げ、鞄の中に隠していたお菓子を献上するのだった。

 

「ちなみにですが、仲人が隠している艶本の位置と好みも把握していますよ」

「……俺にプライバシーはないのか。もういっそ殺してくれ」




 

 

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