第7話

 君は彼を好きになった。


 彼は君を好きにはならなかった。


―——俺は、君が……。



 代表者用の衣服に着替えて、長い回廊を歩く。

「横笛」

 聞きなれた声で名前を呼ばれた。

 ふり返ると、もっちゃんが立っていた。

 一瞬、ドキッと心臓が強く脈打った。

 今まで見たことのない、真剣な表情をしていたもっちゃんが悪い。

 こちらの気持ちをすべて見透かしたような顔をしていたもっちゃんが悪い。

 そう自分に言い聞かせて、なんとか平常心を保った。

「何をしにいくんだ」

 何を、か。

 フッと自嘲気味の笑みが漏れた。

 どこか、じゃないんだ。

「牽牛のところ。ちょっと早いけど」

 と、笑ってごまかすと、聡い親友は疑わしそうに眉を寄せた。

 じゃあ、行ってくるな、そう言いながら笑って、その場を離れた。

 ‥‥‥いつもみたいに、笑えてたかな?

 この時、私はもっちゃの顔をまともに見られなかった。

 だって―——きっと、見てしまったら決意が揺らいでしまっただろうから。



 私が牽牛のところに行くと、彼はすでに準備を終えていた。

 いつもの牛飼い用のボロボロの服ではなく、きっちりとした正装に身を包んでいる。

 私に気が付くと、少し緊張気味の声で話しかけてきた。

「よ、さっきぶり。今年もよろしくな」

 私はそれには答えず、黙って右手を差し出した。

 え、と牽牛が私と差し出された手を交互に見る。

「来て、牽牛。私から貴方に七夕のプレゼント。貴方に世界を見せてあげる」

 そう言って、微笑んだ。


 ———七夕まで、あと3時間。

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