第6話

 そこから先のことは。

 情けないことに、まあ、頭が真っ白でろくに覚えていなかった。

 ただ準備があるからと、すぐにその場を離れた。

 そして、気が付いたら自分の自室にいた。

 力の抜けた私は襖にもたれかかるようにして、畳に座り込んだ。

 私の方が牽牛のことを好きとか。

 好きだった時間が違うとか。

 そういうことじゃないんだよな。

 あの二人の恋は昔も、今も、この先も、未来永劫変わることのない普遍的なモノなのだ。

 そこに第三者が加わる隙間なんてない。

———じゃあ、私の気持ちは?

 どろっとした黒い感情が流れてくる。

 叶うこともない。

———いやだ。

 知られることもない。

———いやだ。

 私の頬をなにかが伝っていく。

 この世に。

 あの人の世界に。

 ひとかけらの存在も残すことなく、消えていくんだ。

 私はぎりっと歯を食いしばり、とめどなく流れていく涙をぬぐった。

「そんなの、いやだ」

 その目は、あの日と同じように。

 決意に満ちていた。

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