第3話

「横笛!」

 名前を呼ばれてふり返ると、友達のもっちゃんが走り寄ってくる。

「今年の七夕の橋渡しの代表者が決まったぞ。今年の代表者は、横笛だって」

 橋渡しとは、七夕の夜に牽牛と織姫が会うために天ノ川に橋を架けることだ。

 そのお役目を行うことは、我ら鵲一族の誉でもある。

 しかも、それの代表者に選ばれるなど、とても凄いことなのだ。

 やりたくてやれるものではない。

「そう‥‥‥」

 私がそう言うと、もっちゃんは不思議そうにこちらを窺ってくる。

「なに? うれしくないの?」

「え、そんなことないよ。なんか実感が湧かなかっただけ。というか、今年はまた急だね」

「そうだな。当日になって決まるなんて、今までなかったし。史上最年少だしな」

 それだけ横笛の信仰心の深さが評価されたってことだろ、ともっちゃんがうれしそうに言った。

 もっちゃんとは生まれた時からずっと一緒にいる。

 親友というよりは、悪友に近い。

「‥‥‥ちょっと出かけてくる。牽牛に今年の代表になったことを伝えに行かないと」

「今からか? 他の人がやってくれてるだろうし、お前は準備とかあるだろ」

「大丈夫だって。すぐ行って帰ってくるから」

 まあそれなら、と親友は渋々了承してくれた。

 べつに代表者に選ばれたことは、別段うれしくなんてない。

 だって、牽牛にはいつでも会えるから。


 ———七夕まで、あと16時間。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る