ヤンデレさんは晩ごはんにしたい
「お待たせ。お腹、すいた?」
恋人の声と共に身動きの取れない貴方の前に皿とコップが置かれる。
彼女は貴方の顔がよく見えるように対面に座った。
「今日はカレー。辛さは貴方好みにしてあるから」
「……?当然、貴方の好みは知っている」
「それと付け合わせのザクロジュース。貴方の為に果汁100%の搾りたてを用意した」
「?何も混ぜてない」
「本当。仮に混ざっていたとしても、それは不可抗力で起きた事故によるものだから」
「貴方への愛を込めたから、きっと美味しく食べられる」
「そうだよね?」
「貴方は私を愛しているんだから、私の愛でお腹いっぱいにする事なんて簡単なはず」
「さあ、食べましょう……いただきます」
しかし彼女はカレーに手を付けず、貴方の事をじっと見つめている。
「…………何?気にしないで。貴方が食べる姿が私にとって1番のスパイスだから」
「それとも食べさせて欲しいの?……それはとても恋人らしくて良いと思う。素敵な事ね。やりましょう」
「ほら、口を開けて?……あーん」
テーブルに身を乗り出し、スプーンを手に彼女が近付いてくる。
そのまま貴方の耳元へと顔を寄せ、囁く。
「──はい。しっかりと咀嚼して。貴方の健康にも気を遣って作った食事だから、食べる時も健康に気をつけて食べて欲しい。なにせ貴方の身体の一部になるんだもの、私の作った料理が貴方を構成する一部にね。それはとても素晴らしい事。心も、身体も……私でいっぱいにして欲しい」
「──それで、美味しい?」
「うん、そうだと思った。これは貴方の好みに合わせてスパイスから作ったカレーだもの。貴方の事は私が世界で1番わかっている。貴方が望むならどんな料理だって貴方好みに作るから」
「でも今はこのカレーの事だけ考えて。これは私の愛の証。貴方はただこれを味わって、咀嚼し、嚥下するだけでいい」
「はい、あーん……」
「貴方の顔を見れば分かる。美味しいと思ってくれてるんだって……嬉しい」
「ん……どうしたの?顔、赤い」
「貴方の好みの辛さから考えても、このカレーでそんなに顔が赤くなるなんて変……ねえ、何を隠してるの?」
「顔?私の顔が近いから……?」
「……さっきだって沢山触れ合ったのに、これだけで照れるなんて貴方は不思議」
「不思議で、とても愛おしい」
「貴方の好きなものは私が幾らでも用意する。だから貴方の色んな姿を見せて欲しい。喜怒哀楽の全てが欲しいの。私にだけ全てを向けて欲しい……貴方を構成する全てが私によるもので、貴方の全てが私に向かうもの。そうして2人でぐるぐる回って、1つに溶け合いたい」
「だから、その……私にも、あーんをして欲しい」
「わ、笑わないで……!貴方が食べさせてくれたら、それがきっと世界一のものだから……私もして欲しい」
「あ、あーん……ん」
「や、やっぱり少し恥ずかしい……けど、ありがとう、人生で1番美味しいカレーになった」
「もう一口、欲しいかも」
「あーん……んふふ、ごちそうさま」
「とても美味しかったから、貴方にもこの幸せをもっと味わって欲しい。口を開けて」
「あーん……食べる時、そっち側に寄せるのね。頬が膨らんで、可愛い」
「恥ずかしい?でも顔を背けたりしないで。その顔も見たいの。貴方の全てを、見たいから」
「さあ、食べましょう。冷めないうちに食べた方が美味しいから」
スプーンが器に当たる音が暫く続いた……
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