第26話「リゾートホテルでの素敵な思い出」

 山道を登り切ると、木々の間から突如として現れた大きな建物に、リリィは息を呑みました。


「わぁ! あれがホテル?」


 白亜の外壁に大きな窓、

 そして緑の屋根が特徴的な建物は、まるでおとぎ話に出てくるお城のようでした。


「そうよ、リリィ。これから3日間、ここで過ごすのよ」


 フローラの言葉に、リリィの目がさらに輝きます。


 車が駐車場に止まると、リリィは急いでドアを開けました。


「うわぁ! 空気がおいしい!」


 深呼吸をすると、森の香りがリリィの肺いっぱいに広がります。周囲には背の高い杉や松が立ち並び、その間から漏れる陽光が地面に美しい模様を描いていました。


 ムーンとサニーも車から降りると、尻尾を振りながら周囲の匂いを嗅ぎ回り始めました。新鮮な空気と自然の香りに、二匹も興奮しているようでした。


「さあ、荷物を持って行こうか」


 テラがトランクからスーツケースを降ろします。リリィも小さなリュックを背負い、はしゃぎながらホテルのエントランスに向かいました。


 エントランスに入ると、高い天井と大きなシャンデリアがリリィの目を引きました。床には光沢のある大理石が敷き詰められ、リリィの靴音が心地よく響きます。


「すごい……まるでお姫様のお城みたい!」


 リリィの言葉に、フロントの従業員が優しく微笑みかけました。


「いらっしゃいませ、ブルームフィールド様。ようこそ、グリーンビューリゾートへ」


 チェックインを済ませ、エレベーターで部屋のフロアに向かいます。


「ねえねえ、私たちの部屋は何階なの?」


「15階だよ。景色がとってもいいんだ」


 テラの言葉に、リリィはさらにわくわくしました。


 エレベーターを降りると、廊下には厚手のカーペットが敷かれていました。リリィの足が沈み込むような感覚に、思わず歓声を上げます。


「ふわふわだよ!」


 部屋に到着し、ドアを開けると、リリィは驚きの声を上げました。


「わぁ! すっごく広い!」


 広々としたリビングルームには大きなソファが置かれ、その先には大きな窓ガラス越しに壮大な山々の景色が広がっていました。


「見て、リリィ。あそこに湖が見えるよ」


 フローラが指さす先には、木々の間から青く輝く湖面が見えました。夕陽に照らされた湖面は、まるで宝石のように煌めいています。


「きれい……」


 リリィは窓に張り付くようにして、しばらく景色に見入っていました。


「ねえ、ムーンとサニーはどこで寝るの?」


「ここよ、リリィ。ペット用のベッドが用意されているわ」


 フローラが示した場所には、ふかふかのクッションが二つ置かれていました。

 ムーンとサニーは早速そこに落ち着き、満足げな様子です。


「よかったね、ムーン、サニー!」


 リリィが二匹を撫でると、彼らは嬉しそうに尻尾を振りました。


「さあ、荷物を解いたら、ホテルを探検してみようか」


 テラの提案に、リリィは飛び上がって喜びました。


「やったー! 探検だ!」


 リリィの目は好奇心で輝いています。

 小さな背中にリュックを背負い、まるで本格的な冒険に出かけるような装いです。


「どこから行こうかな?」


 リリィは部屋を出る前に、両親に尋ねました。


「そうねぇ、まずはこの階から始めてみるのはどう?」


 フローラが提案します。


「うん! じゃあ、廊下の端まで行ってみよう!」


 リリィは元気よく廊下に飛び出しました。柔らかなカーペットが足音を吸収し、静かな廊下を歩いていきます。


「あ! ここに何かある!」


 リリィは突然立ち止まりました。壁に掛かっている絵画を指さしています。


「これは何の絵かな?」


 テラが近づいて説明します。


「これはこの地域の昔の風景を描いた絵みたいだね。ほら、あそこに見える山、今日車で通ってきた山と同じだよ」


「へぇ、すごい! 昔はこんな風だったんだ」


 リリィは絵をじっくりと観察しました。


 廊下の端まで来ると、大きな窓がありました。


「わぁ! ここからの景色、きれい!」


 窓からは、ホテルの庭園と遠くの山々が見えます。


「次はどこに行く?」


 フローラが尋ねると、リリィは考え込みました。


「うん、下の階はどうなってるかな?」


 家族でエレベーターに乗り、ロビーフロアに降り立ちました。


「わぁ、広い!」


 高い天井と豪華なシャンデリア、大理石の床が広がるロビーに、リリィは目を丸くします。


「あそこに何か書いてあるよ」


 リリィは案内板を見つけました。


「プール、レストラン、スパ……いろんな施設があるんだね」


 テラが読み上げます。


「プール行きたい!」


 リリィは即座に反応しました。


「プールは今度にしようね。他に気になるところはある?」


 フローラが優しく諭します。


「じゃあ……あ! 中庭があるって書いてある! 行ってみたい!」


 家族で中庭に向かいます。

 ガラスドアを開けると、色とりどりの花々が咲き乱れる庭園が広がっていました。


「わぁ……きれい!」


 リリィは花から花へと駆け回ります。

 蝶々が舞い、小鳥がさえずる様子に、すっかり魅了されています。


「あ! 噴水がある!」


 中庭の中央にある大きな噴水に、リリィは駆け寄りました。


「お願い事をしてみる?」


 テラがコインを渡します。


「うん!」


 リリィは目を閉じ、しっかりとお願いごとをしてからコインを投げ入れました。


「何をお願いしたの?」


 フローラが優しくそうに尋ねます。


「内緒だよ! 言っちゃうと叶わなくなっちゃう」


 リリィは嬉しそうに笑いました。


 探検は続き、レストラン前や売店、そして大浴場の入り口まで見て回りました。


「ねえねえ、あそこに何か光ってる!」


 リリィが指さす先には、小さな池がありました。


「わぁ、鯉がいる!」


 池には色とりどりの鯉が泳いでいます。

 リリィは池の縁に座り込み、魚たちの動きを見つめました。


「餌あげていい?」


 近くの自動販売機で餌を購入し、リリィは慎重に鯉たちに餌をあげます。


「すごい! みんな集まってきた!」


 餌を求めて集まる鯉の群れに、リリィは大興奮です。


 探検の終わりに、家族は屋上テラスに上がりました。


「ここからの景色、最高だね」


 テラが言います。


 夕暮れ時の美しい景色を眺めながら、リリィは今日の探検を振り返ります。


「今日はいっぱい発見があって楽しかった! 今度はプールね!」


 リリィの目には、まだまだ冒険への期待が満ちていました。家族での初めてのホテル滞在は、リリィにとって新しい世界への扉を開く、素晴らしい経験となったのです。



 ホテルでの楽しい一日が終わり、夕食後のひととき。リリィたち家族は、部屋に付属している家族風呂を楽しむことにしました。


「リリィ、お風呂の準備ができたわよ」


 フローラの声に、リリィは目を輝かせました。


「やった! 家族風呂だね!」


 リリィは急いでパジャマを脱ぎ、タオルを手に取りました。


 浴室に入ると、そこには大きな湯船が広がっていました。

 天然温泉の湯気が立ち込め、心地よい香りが漂います。


「わぁ、すごく広いお風呂!」


 リリィは驚きの声を上げました。


「そうねぇ。家のお風呂とは全然違うわね」


 フローラが微笑みながら答えます。


「さあ、まずは身体を洗おうか」


 テラがシャワーの温度を確認しながら言いました。


 リリィは小さな椅子に座り、フローラに背中を流してもらいます。


「くすぐったいよ、ママ」


 リリィがくすくすと笑う声が、浴室に響きます。


「リリィ、今日はたくさん遊んだからね。しっかり汗を流さないとね」


 フローラが優しく諭します。


 身体を洗い終えると、いよいよ湯船に入る時間です。


「気をつけて入るんだよ、リリィ。熱いかもしれないからね」


 テラが声をかけます。


 リリィは慎重に足を湯船に入れました。


「あったかい! 気持ちいい!」


 少しずつ身体を沈めていくリリィ。

 やがて肩まで湯につかると、幸せそうな表情を浮かべました。


「ねえ、パパ、ママ。今日はすっごく楽しかったね」


 リリィが嬉しそうに話し始めます。


「そうだね。リリィが楽しんでくれて、僕たちも嬉しいよ」


 テラが優しく微笑みかけました。


「そうね、初めて家族旅行だものね」


 フローラが付け加えます。


 家族三人で湯船に浸かりながら、今日一日の出来事を振り返ります。

 リリィはゆったりとしたお湯の中で、フローラとテラの温かなぬくもりにしっかりと包まれました。それはこの上もない幸せでした。


 リリィがふと気づいたように顔を上げる。


「ねえ、パパ。この温泉ってどうして温かいの?」


 リリィが不思議そうに尋ねました。


「そうだねぇ。地球の中心はとても熱いんだ。その熱で温められた水が、地面から湧き出してくるんだよ」


 テラが優しく説明します。


「へぇ、すごいね。地球って不思議!」


 リリィの目が好奇心で輝きます。


 湯船の中で、リリィは両親に寄り添いながらゆったりとくつろいでいます。温かな湯と家族の温もりに包まれ、幸せな時間が流れていきます。


「リリィ、指がしわしわになってきたわよ」


 フローラが笑いながら言います。


「本当だ! おばあちゃんの指みたい」


 リリィも自分の指を見て、くすくすと笑いました。


「そろそろ上がろうか。体が温まりすぎちゃうからね」


 テラが提案します。


 湯船から上がり、タオルで身体を拭きます。温泉に浸かった後の身体は、ほんのりピンク色に染まっていました。


「なんだか眠くなってきちゃった」


 リリィがあくびをしながら言います。


「そうね。温泉の後はよく眠れるのよ」


 フローラが優しく頭を撫でました。


 パジャマに着替えたリリィは、温泉の心地よさと疲れが相まって、すぐにベッドに潜り込みました。


「パパ、ママ。今日はありがとう。すっごく楽しかった」


 リリィの瞳には、感謝の気持ちが溢れています。


「こちらこそ、リリィ。一緒に素敵な思い出が作れて嬉しいよ」


 テラとフローラは、娘の頬にそっとキスをしました。


 リリィは幸せな気持ちで目を閉じます。体の芯まで温まった感覚と、家族との楽しい時間の余韻が、彼女を心地よい眠りへと誘っていきました。


 窓の外では、満天の星空が広がっています。家族の絆が一層深まったこの旅の夜。リリィの夢の中でも、きっと素敵な冒険が続いていることでしょう。


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