第22話「羊からの贈り物」
初夏の爽やかな風が吹き抜ける朝、リリィは両親と共に羊小屋に向かっていました。今日は羊の毛刈りの日です。羊たちのふわふわとした毛が、暑い季節を前に重荷になってきていました。
「リリィ、今日は大切な仕事があるのよ」
フローラが優しく声をかけます。
「うん! 羊さんたちの毛を刈るんだよね?」
リリィは期待に胸を膨らませながら答えました。
「そうだよ。でも、簡単な作業じゃないからね。気をつけて見ていてほしいんだ」
テラが真剣な表情で言います。
羊小屋に到着すると、羊たちが不安げな様子で鳴いています。
「大丈夫だよ、怖くないからね」
リリィが優しく羊たちに語りかけます。
テラは大きな鋏を手に取り、最初の羊に近づきました。
「よし、始めるよ。フローラ、羊を押さえていてくれ」
フローラがしっかりと羊を抱きかかえると、テラは慎重に鋏を動かし始めました。
「わあ……!」
リリィは驚きの声を上げます。テラの手さばきは素早く、確実です。羊の体から毛が剥がれていく様子は、まるで魔法のようでした。
「パパ、すごい! どうやってるの?」
「うんとね、羊の皮膚を傷つけないように、毛の根元近くを刈っていくんだ。コツは、羊の体の曲線に沿って鋏を動かすことさ」
テラは作業を続けながら、丁寧に説明します。
「難しそう……」
リリィは眉をひそめます。
「そうね、でも慣れれば大丈夫よ。リリィも大きくなったら、きっと上手にできるわ」
フローラが励ますように言います。
一頭目の羊の毛刈りが終わると、羊の姿が一変していました。もこもこだった体が、すっきりとスリムになっています。
「ほら、さっぱりしただろう?」
テラが満足げに言うと、羊は軽やかな足取りで歩き始めました。
「本当だ! 羊さん、嬉しそう」
リリィは目を輝かせて羊を見つめます。
次の羊の番になりました。
「リリィ、今度は羊を押さえるのを手伝ってくれるかい?」
テラの提案に、リリィは少し緊張した様子で頷きます。
「う、うん! がんばる!」
フローラに指示されながら、リリィは慎重に羊に近づきました。
「優しく、でもしっかりと抱きかかえるのよ。羊さんを安心させることが大切なの」
フローラの言葉に従って、リリィは羊を抱きしめます。羊の体温と鼓動を感じながら、リリィは優しく語りかけました。
「大丈夫だよ。ちょっとだけだからね」
羊は最初おびえていましたが、リリィの優しい声に次第に落ち着いていきます。
「よし、始めるよ」
テラが鋏を入れ始めると、リリィは羊をしっかりと支えます。羊が動くたびに、リリィも一緒に体を動かし、バランスを取ります。
「リリィ、上手よ!」
フローラが褒めると、リリィは誇らしげな表情を浮かべました。
毛刈りの作業が始まってしばらくすると、ムーンとサニーが羊小屋にやってきました。
二匹は好奇心いっぱいの目で、いつもと違う光景を眺めています。
「あ、ムーン、サニー! こっちおいで」
リリィが呼びかけると、二匹は尻尾を振りながら近づいてきました。
「よし、ムーン、サニー。今日は特別な仕事があるんだ」
テラが二匹に向かって話しかけます。
「羊たちが逃げ出さないように、見張っていてくれ」
ムーンとサニーは、まるで言葉を理解したかのように吠えて応えました。
毛刈りが進むにつれ、羊たちの中には不安になって逃げ出そうとする子も現れました。そんな時、ムーンとサニーの出番です。
「ムーン、右側!」
リリィの声に反応して、ムーンが素早く動きます。逃げようとした羊の前に立ちはだかり、優しくも毅然とした態度で羊を制止しました。
「サニー、あっちの子をお願い!」
今度はサニーが、羊小屋の隅に隠れようとしていた羊を、上手に誘導して戻してきます。
「すごいね、ムーン、サニー! とっても役に立ってるよ」
リリィは二匹を褒めながら、頭を撫でてあげました。ムーンとサニーは誇らしげに尻尾を振っています。
作業が進むにつれ、ムーンとサニーの動きはさらに洗練されていきました。時には羊たちを整列させ、時には不安そうな羊のそばについて安心させる役割も果たしています。
「ほら、見てごらん、リリィ」
フローラが指さす方向を見ると、サニーが毛を刈られた羊の側にぴったりとくっついて、体を寄せ合っています。
「サニーが羊を温めてあげてるんだ。毛を刈られたばかりの羊は、急に寒く感じるからね」
「わあ、サニー、優しいね!」
リリィは感動した様子で、サニーを見つめました。
一方、ムーンは刈り取られた羊毛を集める仕事を手伝っていました。テラが集めた毛を、ムーンが器用に口をくわえて大きな籠まで運んでいます。
「ムーンもすごいや! もうあたしたちの仲間だね」
リリィの言葉に、ムーンは誇らしげにわん、と吠えました。
毛刈りの作業が終わりに近づくと、ムーンとサニーは羊たちを優しく誘導して、新しい柵の中に導きいれていきます。すっきりとした姿になった羊たちが、二匹の後について歩く様子は、まるで一幅の絵画のようでした。
「本当に良くやってくれたね、ムーン、サニー」
テラが二匹の頭を撫でながら言います。
「そうね。二匹がいてくれて、本当に助かったわ」
フローラも優しく微笑みかけました。
リリィは満足げな表情で、ムーンとサニーを抱きしめます。
「ありがとう、ムーン、サニー。あたしたちみんなで協力して、素敵な仕事ができたね」
ムーンとサニーは嬉しそうに鳴きながら、リリィの顔を舐めました。夕暮れの羊小屋に、幸せな空気が満ちていきます。
毛刈りの作業は順調に進み、次々と羊たちの毛が刈られていきます。
刈り取られた毛は、すでに大きな籠いっぱいになっていました。
「ねえママ、この毛はどうするの?」
リリィが好奇心いっぱいの目で尋ねます。
「そうねぇ、まずは洗って乾かすの。それから紡いで糸にして、セーターや毛布を作るのよ」
「わあ、すごい! あたしも作ってみたい!」
「ええ、今度教えてあげるわ。でも、その前にまずは毛刈りの仕事を終わらせましょう」
フローラの言葉に、リリィは張り切って頷きました。
午後遅くになって、ようやく全ての羊の毛刈りが終わりました。羊小屋は、すっきりとした姿の羊たちでいっぱいです。
「お疲れさま、みんな。良く頑張ったね」
テラが額の汗を拭いながら言います。
「リリィも良く手伝ってくれたわ。ありがとう」
フローラがリリィの頭を優しく撫でます。
「うん! 楽しかった。羊さんたち、喜んでくれてるみたい」
リリィは嬉しそうに羊たちを見つめます。羊たちも、さっぱりとした姿で気持ちよさそうにしています。
「さあ、これからが大変だ。毛を洗って、乾かして、それから……」
テラが言いかけると、リリィが勢いよく手を挙げました。
「あたしも手伝う! 羊毛のお仕事、全部覚えたいな」
両親は笑顔で頷きます。
「ありがとう、リリィ。一緒に頑張ろうね」
夕暮れ時、リリィは大きな籠いっぱいの羊毛を見つめながら、これから始まる新しい挑戦に胸を躍らせていました。羊たちの贈り物が、これからどんな素敵なものに生まれ変わるのか、想像するだけでわくわくします。
羊小屋を後にする時、リリィは羊たちに向かって手を振りました。
「ありがとう、みんな。また明日ね!」
羊たちも、すっきりとした姿で鳴き声を上げて応えます。新しい季節の始まりを告げるような、爽やかな風が吹き抜けていきました。
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