第20話「キラキラ水面の夏の思い出」

 真夏の太陽が照りつける午後、リリィとエマは村はずれの小川へとやってきました。木々の緑が鮮やかな中、川のせせらぎが涼しげに響いています。


「わあ! 今日の川、きれいだね!」


 エマが歓声を上げます。


「うん、本当だね。水も澄んでいるし、気持ち良さそう」


 リリィも目を輝かせながら答えました。


 二人は急いで服を脱ぐとそのまま水着に着替え、小川へと足を踏み入れます。


「きゃっ! 冷たーい!」


 エマが小さな悲鳴を上げると、リリィもくすくすと笑いました。


「でも、気持ちいいね。この暑さがすーっと消えていくみたい」


 しばらく水に慣れた二人は、川の中を歩き回り始めます。

 透き通った水の中では、小さな魚たちが泳ぎ回っています。


「リリィ、見て! あそこにカニさんがいるよ」


 エマが指さす方向を見ると、確かに小さなカニが岩陰からこちらを窺っていました。


「本当だ。かわいいね」


 リリィが近づこうとすると、カニはさっと岩の下に隠れてしまいました。


「あ、逃げちゃった」


「でも、いいところに気づいたね、エマ」


 二人は川の中をゆっくりと探索していきます。時折、水面に映る自分たちの姿を見て笑い合ったり、きれいな小石を拾い集めたりしながら、夏の一日を楽しんでいました。


「ねえ、リリィ。あそこのちょっと深い所で泳いでみない?」


 エマが少し上流の方を指さします。

 そこには、周りよりも水が深くなっている場所がありました。


「いいね。でも、気をつけようね」


 リリィは少し慎重な様子です。前世の記憶から、水の危険性を知っているのかもしれません。


「大丈夫だよ。私たち、去年から泳げるようになったもん!」


 エマの言葉に、リリィも頷きました。


「そうだったね。じゃあ、行ってみよう」


 二人は手をつないで深みに向かいます。

 少しずつ水が深くなっていき、やがて足が届かなくなりました。


「わあ! 浮いちゃった!」


 エマが嬉しそうに声を上げます。


「エマ、こっち向いて!」


 リリィが呼びかけると、エマが振り返ります。その瞬間、リリィは手で水をかけました。


「きゃっ! もう、リリィったら!」


 エマも負けじと水をかけ返します。

 二人は水しぶきを上げながら、楽しそうに追いかけっこを始めました。


「はあはあ……。楽しいね、エマ」


 しばらく遊んだ後、二人は岸辺に上がって休憩します。


「うん! でも、お腹すいちゃった」


 エマがおなかをおさえながら言います。


「そうだね。あ、そういえば……」


 リリィは持ってきたかごを開けました。


「ママが、サンドイッチを作ってくれたんだ。エマも食べる?」


「わあ、いいの? ありがとう!」


 二人は川のせせらぎを聞きながら、おいしそうにおにぎりを頬張ります。


 サンドイッチを食べ終わった二人は、しばらく川辺で寝転がって雲を眺めていました。


「ねえ、リリィ。あの雲、羊みたいじゃない?」


 エマが空を指さします。


「本当だね。あ、そっちの雲は大きな木みたい」


 リリィも負けじと別の雲を指します。

 二人は競うように、面白い形の雲を探し始めました。


 しばらくすると、エマが急に立ち上がりました。


「そうだ! リリィ、川下りしてみない?」


「川下り?」


 リリィは少し驚いた様子です。


「うん! 今日持ってきた浮き輪に乗って、ちょっとだけ流れてみるの」


 エマが指す方向には、確かに二人が持ってきた大きな浮き輪がありました。


「でも、危なくない?」


 リリィは少し心配そうです。


「大丈夫だよ。ほら、あそこまでならすぐだし、浅いし」


 エマが示した場所は、確かにそれほど遠くありません。

 リリィは少し考えてから、頷きました。


「うん、じゃあ試してみよう。でも、お互い気をつけようね」


 二人は浮き輪をもって、再び川に入りました。


「よーし、準備はいい?」


 エマが元気よく声をかけます。


「オーケー。行くよ!」


 リリィも負けじと返事をします。


 二人は同時に浮き輪に腰掛け、ゆっくりと流れに身を任せ始めました。


「わあ! 動いてる、動いてる!」


 エマが嬉しそうに声を上げます。


「本当だ。なんだか不思議な感じ」


 リリィも楽しそうに周りを見回しています。


 流れはゆるやかで、二人はのんびりと景色を楽しみながら進んでいきます。水面に反射する陽の光が、キラキラと目に映ります。


「リリィ、こっち見て!」


 エマが声をかけたので振り返ると、彼女が水しぶきを上げながら手を振っていました。


「エマ、上手だね!」


 リリィも負けじと手を振り返します。


 しかし、その瞬間、リリィの乗っていた浮き輪が小さな岩にぶつかりました。


「わっ!」


 バランスを崩したリリィは、そのまま水の中へと落ちてしまいます。


「リリィ! 大丈夫?」


 エマが心配そうに声をかけます。


「う、うん。大丈夫」


 幸い、水は浅かったので、リリィはすぐに立ち上がることができました。


「もう、びっくりしたよ」


 エマも浮き輪から降り、リリィのそばに来ました。


「ごめんね、心配させて。でも、楽しかったね」


 リリィが笑顔を見せると、エマも安心したように頷きました。


「うん! また今度やろうね。でも、今度は気をつけてね」


 二人は笑い合いながら、岸辺へと戻っていきました。


 夕暮れ時、リリィとエマは名残惜しそうに川辺を後にします。


「今日は楽しかったね、エマ」


「うん! また一緒に来ようね、リリィ」


 二人は手をつなぎ、夕日に照らされた帰り道を歩いていきました。頭の中には、キラキラ光る水面と、楽しかった一日の思い出が詰まっています。


 リリィは心の中でつぶやきました。


(こんな楽しい夏の一日、前世では経験したことがなかったな……)


 そして、大切な友達と過ごせる今の生活に、深い感謝の気持ちを抱きました。

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