第13話「和解の芽、友情の花」

 春の晴れた爽やかな日、リリィは村はずれの小道を歩いていた。ふと、物音に気づいて振り返ると、そこにはトムの姿があった。トムは、こっそりと野良猫にえさをやっているところだった。


「トム?」


 リリィの声に、トムは驚いて振り返った。


「な、なんだよ……見てたのか?」


 トムの表情には、困惑と恥ずかしさが混ざっていた。リリィは優しく微笑んだ。


「うん、見てたよ。ほんとは優しいんだね、トム」


 トムは顔を赤らめ、そっぽを向いた。


「べ、別に……このへんをうろついてる猫がかわいそうだっただけさ」


 リリィは、トムの本当の姿を垣間見た気がした。


「ねえ、トム。どうして、いつもみんなをいじめるの?」


 トムは一瞬言葉に詰まったが、やがてぽつりと話し始めた。


「別に……理由なんかないよ……ただ、みんなに構ってほしかっただけさ」


 リリィは、トムの寂しさを感じ取った。


「そっか。じゃあ、一緒に遊ぼう!」


 トムは驚いた顔でリリィを見つめた。


「ほ、本当か?」


「うん! みんなで楽しく遊ぼう」


 リリィはトムの手を取り、村の広場へと向かった。そこには、ジャックを含む何人かの男の子たちが集まっていた。


「みんなも、トムと一緒に遊ぼう!」


 最初は戸惑いの表情を見せた男の子たちも、リリィの明るい笑顔に押され、次第にトムを受け入れ始めた。


「よーし、木登り鬼ごっこをしよう!」


 ジャックの提案に、みんなが賛成した。リリィも目を輝かせて頷いた。


 鬼になったリリィは、驚くべき身のこなしで次々と男の子たちを追いかけた。木から木へと軽々と飛び移り、高い枝にも難なく登っていく。


(おままごとや花冠作りもいいけど、やっぱりこういう体を動かす遊びも楽しいな)


 リリィは心の中でつぶやいた。

 前世の卓越した身体能力と運動の記憶が、こんな形で役立つとは思ってもみなかった。


 気がつくと、リリィは大きな樫の木のかなり高いところまで登っていた。

 下を見下ろすと、トムが驚いた顔で見上げていた。


「お、お前、女のくせに怖くないのかよ?」


 トムの声には、驚きと感心が混ざっていた。


「全然平気!」


 リリィは得意げに答えた。

 高所での経験は、前世の記憶の中にたくさんあったからだ。なんなら100メートルを超える塔に命綱なしで登って任務を果たした経験もある。


 トムは春の風に髪をなびかせる、凛としたリリィの姿にしばらく見惚れていた。

 やがてトムは少し考え込むような表情をした後、ぽつりと言った。


「あのさ……この前の事、ごめんな……」


 リリィは優しく微笑んだ。


「いいよ、トム。これからは仲良く一緒遊ぼうね」


 トムは頷こうとしたが、突然顔を真っ赤にして目をそらした。


「どうしたの?」


 リリィが不思議そうに尋ねる。

 しかし、トムは答えられない。

 実は、トムの位置からはリリィのスカートの中のパンツが丸見えだったのだ。


「な、なんでもない! 早くそっから降りてこいよ!」

「? 変なの?」


 トムは慌てた様子で叫んだ。リリィは首を傾げたが、言われた通りに木を降り始めた。


 その日の遊びを通じて、トムは少しずつみんなに溶け込んでいった。リリィは、トムの笑顔を見て心から嬉しく思った。


(みんなと仲良く遊べるって、本当に素敵なことだわ)


 夕暮れ時、家路につく途中、リリィはふと気づいた。


「あれ? そういえば帰るとき、トムの顔がずっと赤かったけど、なんでかしら? 風邪?」


 リリィには、まだ分からないことがたくさんあった。

 でも、新しい友情の芽生えを感じられた一日だった。



 家に帰ると、リリィは今日のことを両親に報告した。


「へえ、トムくんと仲良くなれたんだ」


 テラが感心したように言った。


「うん! トムも本当はいい子なの。ただ寂しかっただけみたい」


 フローラが優しく微笑んだ。


「そうね。人は皆、優しさを持っているのよ。リリィが気づいてあげられて、本当に良かったわ」


 リリィは嬉しそうに頷いた。


 その夜、ベッドに横たわりながら、リリィは今日一日を振り返っていた。トムとの和解、みんなで遊んだ楽しい時間、そして高い木に登った時の爽快感。全てが新鮮で、心躍る体験だった。


(明日はどんな素敵な冒険が待っているかな)


 そんな期待を胸に、リリィは幸せな気持ちで眠りについた。窓の外では、秋の夜空に星々が静かに輝いていた。

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