第11話「畑の恵み、心の実り」
初夏の陽光が、グリーンヴェイル村の畑を優しく包み込んでいた。リリィ・ブルームフィールドは、両親と一緒に畑に立ち、今日の作業に向けて心を躍らせていた。
「リリィ、今日はトマトとナス、ピーマンの苗を植えるのよ」
母フローラが優しく声をかけた。
「うん! 楽しみ!」
リリィは目を輝かせて答えた。
畑には、ブルームフィールド家だけでなく、近所のサンフラワー家も来ていた。サンフラワー家の長男ジャックは、リリィと同い年で、よく一緒に遊ぶ仲だった。
「おはよう、リリィ!」
ジャックが元気よく手を振った。
「おはよう、ジャック! 一緒に頑張ろうね」
リリィも笑顔で応えた。
父テラが、みんなを集めて今日の作業の説明を始めた。
「さて、今日は三つの野菜の苗を植えます。それぞれの野菜に合わせて、畝の間隔や植え付けの深さが違うので、よく聞いてくださいね」
大人たちが頷く中、リリィとジャックは真剣な表情で耳を傾けた。
「まず、トマトの苗を植えましょう。畝と畝の間は80センチ、苗と苗の間は60センチくらい空けてください」
テラの指示に従って、大人たちが畝作りを始める。リリィとジャックは、小さな鍬を持って畝作りを手伝った。
「ねえ、リリィ。トマトってどんな風に育つの?」
ジャックが不思議そうに尋ねた。
「えっとね、最初は小さな緑の実ができて、それがだんだん大きくなって赤くなるの」
リリィは前世の記憶を頼りに答えた。
「へぇ、すごいね! リリィ、よく知ってるね」
ジャックは感心した様子だった。
畝作りが終わると、いよいよ苗の植え付けが始まった。フローラがリリィとジャックに、トマトの苗を手渡した。
「はい、これを持って。根っこを傷つけないように、そーっと植えるのよ」
「分かった!」
二人は慎重に苗を持ち、準備された穴に植えていく。リリィは、小さな命を預かっているような気がして、とても大切に扱った。
「よし、水をあげよう」
テラが小さなジョウロを二人に渡した。リリィとジャックは、植えたばかりの苗に優しく水をかけた。
「大きくなーれ!」
ジャックが元気よく声をかけると、リリィも笑顔で頷いた。
次は、ナスの苗を植える番だった。
「ナスは、畝と畝の間を100センチ、苗と苗の間を60センチくらい空けましょう」
サンフラワー家のお父さんが説明した。
「ナスって、どんな花が咲くの?」
今度はリリィがジャックに尋ねた。
「えっと、紫色の星みたいな花だよ。僕のおばあちゃんが教えてくれたんだ」
「へぇ、きれいそう! 楽しみだね」
二人は楽しそうにおしゃべりしながら、ナスの苗を植えていった。
最後は、ピーマンの苗だ。
「ピーマンは、畝と畝の間を60センチ、苗と苗の間を40センチくらいにしましょう」
フローラが指示を出した。
「ピーマン、苦手なんだよね……」
ジャックが少し困った顔をした。
「大丈夫だよ。おいしい食べ方、教えてあげる!」
リリィが元気づけるように言った。
「本当? ありがとう、リリィ!」
ジャックは嬉しそうに笑顔を見せた。
三種類の野菜の苗を全て植え終わると、みんなで畑を見渡した。整然と並んだ苗たちが、陽の光を浴びて輝いているように見えた。
「みんな、よく頑張りました」
テラが満足そうに言った。
「さあ、これからが楽しみですね」
サンフラワー家のお母さんも笑顔で頷いた。
作業を終えた後、二つの家族は畑の端にあるベンチで休憩をとることにした。フローラが用意してきたレモネードを飲みながら、大人たちは農作業の話に花を咲かせる。
リリィとジャックは、畑の近くの小川まで歩いていった。
「ねえ、リリィ。この苗たちが大きくなるの、楽しみだね」
「うん! 毎日見に来たいな」
二人は小川のせせらぎを聞きながら、夏の収穫を想像して目を輝かせた。
「そうだ、約束しよう。この野菜たちが実をつけたら、一緒においしく食べようね」
ジャックが小指を立てた。リリィも嬉しそうに小指を絡ませる。
「約束だよ!」
その瞬間、リリィは心の中でつぶやいた。
(前世では、こんな風に友達と約束を交わすこと、なかったな……)
しかし、その思いは一瞬だった。今のリリィには、大切な友達がいて、育てる野菜があり、そして愛する家族がいる。それだけで、胸がいっぱいになるほど幸せだった。
「リリィ、ジャック! そろそろ帰るわよ」
フローラの呼び声に、二人は小川から畑に戻った。
「今日はとても良い一日だったわね」
フローラが優しく微笑んだ。
「うん! すっごく楽しかった!」
リリィは満面の笑みで答えた。
家路につきながら、リリィは今日植えた苗たちのことを考えていた。小さな命が、これからどんな風に育っていくのか。その成長を見守ることが、今のリリィにとってはかけがえのない喜びだった。
帰宅すると、リリィは急いで自分の部屋に向かった。小さなノートを取り出すと、今日の出来事や感じたことを丁寧に書き始めた。
(今日植えた苗たち、大きくなあれ。そして、みんなでおいしく食べられますように)
リリィはそんな願いを込めて、日記を締めくくった。窓の外では、夕暮れの空が美しく染まり始めていた。明日もまた、新しい発見と喜びに満ちた一日が始まるのだろう。リリィは、その日々を心から楽しみにしていた。
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