第8話「小さな大工さんの大きな夢II」

 基礎工事が終わり、いよいよ本格的な建設が始まる。毎日の作業は大変だったが、リリィにとってはそれは楽しい冒険のようだった。


 丸太を積み上げていく作業では、リリィは小さな手で丸太を支えたり、道具を手渡したりと、できる限りの手伝いをした。時には、前世の知識を巧みに使って、父にアドバイスすることもあった。


「パパ、この丸太と丸太の間、もう少し詰めた方がいいんじゃない?」


「おや、そうだね。リリィはよく気がつくね」


 テラは娘の言葉に耳を傾け、時には作業の方法を変更することもあった。リリィの助言のおかげで、作業はより正確に、効率的に進んでいった。


 屋根を作る段階になると、リリィは高所での作業を心配そうに見守った。


「パパ、気をつけてね。滑り止めの靴を履いた?」


 テラは娘の心配そうな顔を見て、優しく微笑んだ。


「ありがとう、リリィ。パパはちゃんと安全対策してるよ。でも、リリィが気づかせてくれて助かったよ」


 こうして、日々の作業の中で、リリィは少しずつ成長していった。単に手伝いをするだけでなく、安全や効率を考えることの大切さを学んでいったのだ。


 ある日、テラが困った顔をしていた。


「どうしたの、パパ?」


「うーん、窓の配置をどうするか悩んでるんだ。日当たりも大事だけど、景色も楽しみたいしね」


 リリィは少し考えてから、提案した。


「パパ、大きな窓を南側に作って、小さな窓を東と西に作るのはどう? そうすれば、朝日も夕日も見えるし、昼間は明るくなるよ」


 テラは驚いたように娘を見つめた。


「すごいね、リリィ。それ、とてもいいアイデアだよ。パパも考えてみたけど、そこまで思いつかなかったな」


 リリィは嬉しそうに笑った。前世で建築に関わっていた経験が、こんな形で役立つとは思ってもいなかった。


 建設が進むにつれ、ログハウスの形が徐々に現れてきた。リリィは毎日、目に見えて変化していく家の姿に胸を躍らせた。


「パパ、私たちの家、どんどん大きくなってるね!」


「そうだね。リリィのおかげで、とても素敵な家になりそうだよ」


 テラの言葉に、リリィは誇らしい気持ちでいっぱいになった。


 そして、ついに完成の日を迎えた。森の中に佇む小さなログハウスは、まるでおとぎ話に出てくるような素敵な家だった。


「さあ、みんなで中に入ってみよう」


 テラが扉を開けると、木の香りが漂う居心地の良い空間が広がっていた。リリィは目を輝かせて家の中を駆け回った。


「わぁ、素敵! 私たちで作ったんだよね」


 フローラも感動した様子で、部屋を見回している。


「本当に素晴らしい家ね。テラ、リリィ、二人とも本当によく頑張ったわ」


 家族三人で、新しい家の中央に立つ。テラが優しく二人を家族三人で、新しい家の中央に立つ。テラが優しく二人を抱きしめた。


「これからここで、たくさんの思い出を作ろうね」


 リリィは嬉しさで胸がいっぱいになった。自分の小さな手伝いが、こんな素敵な家を作ることにつながったのだ。


 その夜、家族は新しいログハウスで初めての晩餐を楽しんだ。テーブルの上には、フローラの腕によるごちそうが並んでいる。


「ねえパパ、ママ。この家に名前を付けない?」


 リリィの提案に、両親は顔を見合わせて微笑んだ。


「そうだね。どんな名前がいいかな?」


 リリィは少し考え込んだ後、明るい声で言った。


「『みんなの夢の家』はどう?」


「素敵な名前ね、リリィ」


 フローラが優しく頷いた。テラも賛成の意を示した。


「そうだね。この家は確かに、みんなの夢が詰まった特別な場所だ」


 食事の後、家族は外のデッキに出た。満天の星空が広がっている。


「ねえ、流れ星!」


 リリィが指さす先に、一筋の光が走った。


「みんなで願い事をしよう」


 テラの提案に、三人は目を閉じて静かに願い事をした。


 リリィは心の中でつぶやいた。


(これからもずっと、みんなで幸せでありますように)


 目を開けると、両親が優しく微笑んでいた。リリィは両親の手を取り、三人で夜空を見上げた。


 その時、リリィの心に、ほんの少しだけ複雑な思いが浮かんだ。


(前世の記憶があったから、パパの役に立てた。でも、それ以上に大切なのは、今この瞬間、家族と一緒にいられること、それを大事にすること)


 リリィは両親の手をぎゅっと握り締めた。


「パパ、ママ。私ね、とっても幸せ」


 両親は驚いたように娘を見つめた後、優しく抱きしめた。


「私たちも幸せだよ、リリィ」


「あなたがいてくれて、本当に良かったわ」


 星空の下、家族三人の絆が一層深まったのを感じた夜だった。


(もう前世のことでくよくよ悩むのはやめよう。あたしはリリィ。そう、リリィ・ブルームフィールドとしてこの世界でしっかり生きているんだから……!)



 翌朝、リリィは早起きして、新しい家の窓から朝日を眺めていた。昨日までとは違う景色に、新鮮な気持ちがよみがえる。


「おはよう、リリィ。早起きだね」


 テラが優しく声をかけてきた。


「うん! 新しいお家からの朝日を見たかったの」


 リリィの無邪気な笑顔に、テラは心を打たれた。


「そうか。どうだい、きれいかい?」


「うん、とってもきれい! パパ、見て。あそこに小鳥の巣があるよ」


 リリィが指さす先には、小さな巣が見えた。


「本当だ。この家が、色んな生き物の近くにあるんだね」


 二人で朝の自然を楽しんでいると、フローラが朝食の準備を始める音が聞こえてきた。


 新しい家での生活が、こうして始まった。週末になると、家族はこのログハウスで過ごすようになった。時には村の人々を招いて、バーベキューパーティーを開くこともある。


 リリィは、この家を建てる過程で学んだことを、日常生活でも活かすようになった。物事を注意深く観察し、問題があればどうすれば解決できるか考える習慣がついたのだ。


 ある日、リリィは村の図書館で建築の本を見つけた。


「へぇ、こんな本があったんだ」


 リリィは興味深そうにページをめくった。そこには、前世で知っていた知識も、まだ知らなかった新しい情報もあった。


(もっと勉強して、またパパの役に立ちたいな)


 そう思いながら、リリィは本を借りることにした。


 家に帰ると、テラが庭で何かの設計図を描いていた。


「パパ、何を作るの?」


「ああ、リリィ。実はログハウスの隣に、小さな温室を作ろうと思ってね。ママの薬草を育てるためなんだ」


 リリィは目を輝かせた。


「私も手伝っていい? 今日、図書館で建築の本を借りてきたの」


 テラは驚いたような、嬉しそうな表情を浮かべた。


「そうか、リリィは本当に物作りが好きなんだね。もちろん、一緒に作ろう」


 こうして、リリィの新しい挑戦が始まった。前世の記憶を大切にしながらも、今を精一杯生きる。そして、家族との絆を深めていく。


 リリィにとって、この「みんなの夢の家」は、そんな自分の成長を見守ってくれる特別な場所となったのだった。

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