第7話「小さな大工さんの大きな夢」
夏の日差しが強くなり始めた頃、リリィの父テラは家族に新しい計画を告げた。
「みんな、実はね、新しくログハウスを建てようと思うんだ」
テラの言葉に、リリィは目を輝かせた。
「わぁ! 本当? どんなお家になるの?」
テラは優しく微笑んで答えた。
「そうだねぇ、森の中にある小さな隠れ家みたいな感じかな。週末に家族で過ごしたり、時には村の人たちを招いたりできる場所にしたいんだ」
母のフローラも嬉しそうに頷いている。
「素敵ね。私たちの新しい思い出の場所になりそう」
リリィは興奮を抑えきれない様子で、父の腕にしがみついた。
「パパ、私も手伝っていい?」
「もちろんだよ、リリィ。でも危ないこともあるから、できることだけね」
その日から、テラのログハウス建設が始まった。まず、森の中の適した場所を探すところから。
リリィは父の後をついて、せっせと森を歩き回った。
「パパ、ここはどう? 木々が空いてて、小川も近くにあるよ」
テラは感心したように娘を見つめた。
「よく気がついたね、リリィ。場所選びは大切なんだ。日当たりや水はけ、周りの環境……全部考えないといけないからね」
リリィは得意げに胸を張った。実は、前世の記憶の中に、建設現場で働いていた時期があったのだ。その知識が、今ここで役立っている。
場所が決まると、次は材料の準備だ。テラは近くの林業家から丸太を仕入れ、それを加工し始めた。
「リリィ、この丸太を測るのを手伝ってくれるかな」
「うん! 任せて!」
リリィは小さな巻き尺を手に、真剣な表情で丸太を測り始めた。
「パパ、この丸太は3メートル20センチだよ」
「おや、正確だね。よくできました」
テラが頭を撫でると、リリィはくすぐったそうに笑った。
測定が終わると、テラは丸太を切り始めた。大きなノコギリを使う作業は危険なので、リリィは少し離れたところから見守っていた。
「パパ、気をつけてね」
リリィの声に、テラは振り返って笑顔で答えた。
「ありがとう、リリィ。もちろんパパは気をつけているよ」
作業が進むにつれ、リリィは思わず口を挟んでしまった。
「パパ、その丸太、もう少し斜めに切った方がいいんじゃない?」
テラは驚いた顔でリリィを見た。
「どうしてそう思うの?」
「え、えっと……本で読んだの。斜めに切ると、雨水が溜まりにくいんだって」
テラは感心したように頷いた。
「そうか、リリィは本をよく読んでるんだね。その通りだよ。パパが気づかなかったよ。ありがとう」
リリィは内心ほっとした。前世の知識をうまく活用できて良かったと思う。
日が暮れる頃、一日の作業を終えた父娘は家路についた。
「今日はよく頑張ったね、リリィ」
「うん! 明日も頑張る!」
家に着くと、フローラが温かい夕食を用意して待っていた。
「お帰りなさい。今日はどうだった?」
テラは誇らしげにリリィを見ながら答えた。
「リリィが大活躍だったよ。測定も手伝ってくれたし、いい提案もしてくれたんだ」
フローラは優しく微笑んだ。
「まあ、すごいじゃない。リリィ、よく頑張ったわね」
リリィは照れくさそうに頬を赤らめた。
その夜、ベッドに横たわりながら、リリィは今日一日を振り返っていた。父と一緒に働けた喜び、そして前世の知識が役立った満足感。でも同時に、少し複雑な気持ちも湧いてきた。
(前世の記憶は、時々悲しいことを思い出させる。でも、今はそれを使って大切な人を助けられる。それって、きっといいことだよね)
リリィはそう自分に言い聞かせると、安心したように目を閉じた。
翌日、朝日が昇るとともに、リリィは飛び起きた。今日も父の手伝いができる。その思いだけで、胸が躍る。
「パパ、今日は何をするの?」
朝食を取りながら、リリィは興味津々で尋ねた。
「そうだねぇ、今日は基礎作りを始めようと思うんだ」
「きそ? それってなに?」
テラは優しく説明を始めた。
「家の土台のことだよ。しっかりした基礎がないと、家全体が不安定になってしまうんだ」
リリィは真剣な表情で頷いた。前世の記憶の中にも、基礎の重要性が刻まれている。
現場に到着すると、テラは地面を整地し始めた。リリィも小さなシャベルを手に、懸命に手伝う。
「リリィ、その石ころを拾ってくれるかな」
「はーい!」
リリィは元気よく返事をして、地面に散らばる小石を拾い集め始めた。その姿は、まるで宝探しをしているかのようだ。
作業が進むにつれ、リリィはふと気づいたことがあった。
「パパ、この辺の地面、少し柔らかくない?」
テラは驚いて振り返った。
「本当だ。よく気がついたね。ここは少し地盤が弱いかもしれない」
リリィの指摘で、テラは計画を少し変更することにした。柔らかい部分には追加の補強を施し、より安定した基礎を作ることにしたのだ。
「リリィのおかげで、大事なことに気づけたよ。ありがとう」
テラの言葉に、リリィは誇らしげに胸を張った。
昼頃になると、フローラがお弁当を持って現場にやってきた。
「はい、お昼よ。二人とも、ゆっくり休憩してね」
木陰に腰を下ろし、三人で楽しくお弁当を食べる。リリィは嬉しそうに今日の出来事を母に話した。
「ねえママ、私ね、パパの役に立てたんだよ」
「そうなの? すごいじゃない」
フローラは優しく微笑んで、リリィの頭を撫でた。
午後の作業が始まると、テラは基礎のコンクリート打ちの準備を始めた。リリィは興味深そうにその様子を見守っている。
「パパ、コンクリートって固まるのに時間がかかるんでしょ?」
「そうだね。どうしてそれを知ってるの?」
リリィは一瞬言葉に詰まったが、すぐに取り繕った。
「え、えっと……村の大工さんが言ってたの」
テラは納得したように頷いた。
「そうか。よく覚えていたね。そうなんだ、コンクリートは固まるのに時間がかかるんだよ。だから、天気や温度にも気をつけないといけないんだ」
リリィは真剣な表情で父の説明を聞いている。前世の記憶と重なる部分も多く、新鮮な気持ちで学び直していた。
作業が終わりに近づく頃、テラはリリィに向かって言った。
「リリィ、最後に大切な仕事があるんだ。基礎に、私たち家族の思い出を埋め込もう」
「思い出を埋め込む?」
「そう。小さな箱に、家族みんなの大切なものを入れて、基礎の中に埋めるんだ。そうすれば、この家は特別な思い出の詰まった場所になるんだよ」
リリィは目を輝かせた。
「わぁ、素敵! 私も入れていい?」
「もちろんだよ」
その日の夕方、家族三人で小さな箱を用意した。テラは自分の大切な釣り針を、フローラは押し花のしおりを入れた。リリィは少し考えてから、自分の大切な小さな人形を箱に入れた。
翌日、その箱を基礎のコンクリートに埋め込む。リリィは、まるで大切な宝物を隠すかのように、慎重に箱を置いた。
「これで、私たちの思い出がこの家を支えるんだね」
テラの言葉に、リリィは大きく頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます