第74話 去ることで発見できた日本
真奈美は100%「お父さん子」で育った。いつも安心感に包まれていて、性格ものんびりとしていた。だから、あのまま日本で生活していたら、大人になってからも父の愛に守られたままの楽な生活を続けていられたことだろう。
父はそれらを見込んで、
「可愛い子には旅をさせよ」を実行したことが窺われた。それが親にとってどれほど不安で心配であったかにも関わらず・・・。
真奈美は日本を去ったことで初めて、故国の美しさ、尊さを発見することができた。戦争中中国で暮らした父はそのことをよく知っていて、敢えて真奈美を外国に出してくれたのだろう。ここまで深い先見の明は、一度命を絶って生き返った父ならではのことだと真奈美は今更ながらに思うのだった。
「遠くへ行って何かを学んで来い」母もそう言って父の考えをサポートしてくれた。
その父が55歳までの新聞記者としてのキャリアを終え、人生の後半60代、70代に至って得た大学教授という仕事は、人に優しい父にぴったりの職だったようだ。遠い大学までの通勤をも厭わず毎日生き生きと教壇に立っていたことは、「終わりよければ全てよし」という言葉を物語っていた。
私生活面では、真奈美の父と母はかなり性格が違っていたため、ぶつかり合うことも多かったようだが、それでもなんとか続けた結婚、そこには無理があったのだろう。年老いてゆっくり二人で余生を楽しむ時期に到達したところでアルツハイマー病が母を襲った。
この病気は、患者もさることながら、何も分からない当人以上に、伴侶にとっては悪夢に他ならないものだった。長年連れ添った相手が生きながらにして脳死してしまうようなものだからだ。母の病状が進むにつれ、面倒を看ていた父も、それまで年齢よりずっと若く見えていたのが、急速に老いへと導びかれていった。
To be continued...
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