第67話 これからの自分

 一人になった真奈美はある日、様々な形で真奈美の力になってくれた友人たちを皆招待して「感謝の会」を開いた。もちろん、その中にはルミ子さんの姿もあった。


 そして、なんとその会にジュリアンも顔を出してくれたのだった!


「私にはママを憎むことなどできないわ」笑顔が眩しかった。


 いまやジュリアンもトロイの心に潜む深い怒りを直接自分自身が受けたことにより、初めて真奈美の立場を理解してくれたようだった。


 遂に、ジュリアンは真奈美と共に暮らしたいと言い始めた。


「3年もかかったが、あの子の方から歩み寄ってくれることを気長に待っていてよかった」


 真奈美は嬉しさで胸が一杯になった。早速、ジュリアンと二人で一緒に住む小さな家を購入し、もう誰の怒りにも悩まされることのない平和で笑いの多い穏やかな毎日を娘と共に送ることができるようになった。


 今、真奈美にとって一番大切なことは自分が誇れる生き方をすること。それにはまず自分をよく理解しなくてはならない。


 日本にいたときには、度々アメリカに渡っていた父から受けた影響下、自分は少なからずアメリカナイズされた人間だと思っていた。ところが、40年ほどアメリカに住んで離婚のような人生の一大事を通り抜けてみると、改めて自分がいかに日本的な人間かに気付く。


 他人ではなく、常に自分の行いを省みるという日本で真奈美が植え付けられていた反省精神は、日本国民の誰もが知っている言葉で、ほとんどの人が実行しているところが日本独特のスーパーパワーであると思う。


 しかしながら、それは、日本のように反省精神がそこら中に散らばっている国で他の人との相互作業の中でこそうまく生かされるものであって、真奈美がしたように、そういった体制のないアメリカのような国で一人頑張って反省を繰り返していても、逆に弱みと見られたり、人に付け込まれたり、更には真に反省を必要としている人に悪影響をも与えてしまうことまであることを彼女は事実として実感した。


 長年真奈美がアメリカで使い続けて来た、恐怖感から出てきた「アイムソーリー」の反省の代わりに、真の反省をすることが今こそ必要だ。自分自身がより良い人間へと成長できるように実行するのが真の反省だ。母国、日本で、多くの人々に大事にされてきた伝統、「反省」とは何なのか、真奈美は母国を外から見ることでやっと納得がいくようになった気がした。


 これからは、アメリカの土壌に必要な健全なる自信を培い、その上で日本的な反省に基付いた自己鍛錬を続けていく生き方へと自分をし仕向けて行こう。


 更に、真奈美にとって大切なことは、真奈美の犯したいくつかのミスのために多大なる打撃を受けた娘、ジュリアンとの関係を改善していくことだ。仕事に追われていた時代には何度も寂しい思いをさせていた。その償いもしたい。幸いまだ時間は残されている。


 他人にはもう綺麗ごとを言うまい。何事も自分が実際にその立場に置かれてみないと分からないものだ。口でなんだかんだと言うのはた易い。


 特に人の離婚に関しては、当の本人にしか真実は分からない。離婚の真実を知らない人たちに色々と詮索されることがいかに迷惑なことか、真奈美は身をもって経験していた。


 それだけに、他人の離婚に関して、自分は何も言うまいと誓った。言葉が独り歩きをしてしまうことが多々あるからだ。  


To be continued...

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