第63話 日本的考え方とアメリカ的考え方?
日本的な考えに基付いた真奈美の人生や離婚に対する姿勢は、アメリカではまったく通用しなかった。反省精神が浸透していない社会で反省精神が通らなかったと同じように、アメリカでは何の効果もなかったのだった。
相手がこちらの罪をバラしたからと、すぐ仕返しとしてこちらも相手の罪を周りにバラすというようなことは、自分を相手と同じ低いレベルに持って行くことになるから、たとえ自分がどんなに不利な立場にあったとしても、人間としての威厳を無視してそのような薄っぺらな勝利感に酔うようなことは決してしてはならない・・・。
これは真奈美が父から叩き込まれていた教えの一つだった。
ゆえに、夫の悪い点を誰にも言わなかったことに始まって、これも恥ずかしいことであると、法廷においてもお互いの汚点であったことには一切何も触れないようにしようという真奈美の提案は真奈美にとって大きなマイナスとなってはね返ってきていた。
何年か前、離婚したアメリカ人の同僚が大きなルビーの指輪を誇らしげに真奈美に見せてくれたことがあった。相手が婚約者だった時代、自分はダイヤの指輪よりルビーの指輪の方が好きだと彼に言っておいたというのだ。何と、それは、万が一、離婚してもルビーの指輪ならそのまま問題なく使えるからという思いが背景にあったからだという。
彼女は自分の頭を指差して、
「私は何と賢い女だ」と誇示していた。
ところが、真奈美といえばどうだったのだろうか?真奈美の両親が過去に彼女への遺産の代わりにと送金してきたお金がかなりの額夫婦の共有口座に入れてあった。
アメリカ人の友人に言わせれば、そういうお金は将来万が一離婚するようなことになった時のために、自分の名義だけの口座を別に用意して、そこに入れておくべきだったと述べた。
日本で育って培った道徳心と威厳に頼る以外の術を知らなかった真奈美の頭の中にはそういった考えすら存在していなかった。
そういった考えが正しいのなら、真奈美は徹底して馬鹿な女だったと言われても仕方がないのだろう。
離婚が終わったからには、トロイと真奈美はそれぞれの責任はそれぞれが自分で負うしかない。法廷での判決はどうあれ、これから先、自分のとった行為を自分の良心がどう受け止めるかということがそれぞれの将来を決めることになる。
トロイも、いつの日か自分自身と向かい合わなければならないときが来るだろう。
もし、彼がそれを避けて人生を終わったとしたら、彼の人生はそれだけのものに終わるだけだ。トロイの行為に関し、彼を真に罰せられるのは他ならぬトロイ自身だ。
そして、真奈美の行為に関し、真奈美を真に罰せられるのも真奈美自身に他ならない。
だからこそ、真奈美は誰のでもない、自分の人生の整理をしなければならない。彼女はそう思っていたのだが・・・、
日本人の友人でさえ、「真奈美は、正直に馬鹿がつくね」と呆れたものだった。
また、アメリカで育ったジュリアンは、果たして、そんな真奈美の道徳観を理解してくれるだろうか?残念ながら、答えはノーだった。
To be continued...
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