第61話 じっと耐える日本人は馬鹿?
数多くいたトロイの従姉妹の中でも一番親しかったリンダは言った。
「マナミ、あなたには悪いけれど、次にトロイに結婚する相手が見つかったときに、私があなたとまだ親しかったら、私の立場上とてもまずいことになるだろうから・・・」 彼女にそこまで言われたところで、真奈美はそれ以上先を聞く気にもならなかった。
「オッケー、リンダ!もうそれ以上言う必要はないわ」
今やトロイの親戚にとって、真奈美はただの東洋の女でしかなかったのだろう。
トロイの母の死後、自分のことを母と思えと言ってくれたトロイの叔母のマリーでさえも、もうただの他人となっていた。夫の不倫を発見して即離婚を要求したマリーだけに、そんなに酷かったのならすぐ離婚すればいいのに、18年も一緒にいたということはたいしたことではなかったのだろうと言われた。
潔く離婚の決意ができるアメリカ女性には、ただただ耐えるだけの日本の女などというのは理解し難いわけだった。
こちらはなにしろ毎日の様に持ち金が少なくなってきていただけに、優秀な弁護士を探すより、一番安い弁護士を探すことの方が先決となっていた。色々調べた中で、1時間100ドルというのが最も安かった。
100ドルの弁護士は真奈美に質問した。
「警察に電話をしたことはありますか?証拠を残すために病院へ行きましたか?」
「いいえ、そんなことはみっともないと思って誰にも言いませんでした」
「じゃあ、証拠は何もないじゃありませんか。何?貯金もクレジットカードにも手をつけていない?お金で卑しいことはしたくない?ミセス・トンプソン、離婚を考えたら、まず先にすることはお金の処理ですよ。ミセス・ナイスに離婚などできませんね」
彼はまるで裁判の敗北をアナウンスでもするかのように呆れた顔で言い放った。
神経質でアパート住まいなどとてもできないトロイだから、「出て行け」と言ったところで出て行くわけがない。
真奈美が家を出るしかないと決め、かと言って、毎日学校へ通わなくてはならないジュリアンを一緒にホテルに泊めて、その後アパートを点々とする様な生活をさせるのは可哀相という思いから、大学教授になって週に数時間教えるだけで、ほとんど家にいるトロイのところにまずは彼女を置いておいて、新しく住む家が決まった時点でジュリアンを迎えに行こうと計画したことも裏目に出た。
トロイの親戚たちには、
「ジュリアンを残して出て行くなどとはとんでもない母親だ」と軽蔑される対象となってしまった。
To be continued...
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