第60話 カウンセリング初体験
トロイは、その後も真奈美が大きな間違いを犯していると言い続けた。
ジュリアンのことを思うなら、そんなに簡単に結論を出さないで、真奈美もカウンセリングに行くぐらいの努力をするべきだと、痛いところを突いてきた。ジュリアンの名前を聞いた途端、真奈美は強がっていた姿勢が崩れて、トロイの勧めるカウンセリングというものに、少なくとも一度は行くべきかもしれないと思い始めて、同意してしまった。
アメリカ人が友人以上に信頼するプロの精神科医に一体何ができるのか見てみたいという好奇心もあるにはあった。もしかしたら、これほど曲がりきってしまった結婚でも彼らの手にかかったら直ってしまうのかもしれない。もし、そうなれば、それはそれで凄いことだと思った。
ところが、優秀なカウンセラーも多い中で、残念ながら真奈美が実際に行ったカウンセリングは、これ程意味のないものはないという手のものだった。なぜなら、真奈美の強い決意の真意を見抜けず、口を開く度にカウンセラーは真奈美に同じ質問ばかりをしてきたものだった。
「ミセス・トンプソン、あなたはなぜここへ来たのですか?」
「なぜって、主人が行け行けと勧めるから来ただけで、私の離婚に対する決意は揺らぎのないものなのです。」
その瞬間、真奈美はトロイと同じカウンセラーに来たのは間違いだったと悟った。
しかし、もう手遅れだ。無駄な努力と薄々感じながらも、その後ずっとなぜ離婚するという結論に達したかをミスター・カウンセラーに全て細かく説明してみた。
「さぁ、今度こそプロフェッショナルな回答が返ってくるかな」と期待して待っていた。
ところが、驚いたことにカウンセラー殿はなんとまた全く同じ質問を繰り返したのだ。
「さて、ミセス・トンプソン、あなたはなぜここへ来たのですか?」
「それは今長々と説明したではないですか?」
呆れた真奈美が言葉を失っていると、何と再び、
「ミセス・トンプソン、あなたはなぜここへ来たのですか?」が出てきた。
真奈美は思った。
「また、それ?もう冗談じゃないわ。こうやって何度も同じ質問を投げかけると、私が突然泣き崩れて、真の理由を吐き出すとでも思っての手法なのだろう。その手には乗らないぞ。」
苛立ちを感じ始めた真奈美が、
「帰らせてもらいます」と言うと、
慌てたカウンセラー氏は、
「ミセス・トンプソン、あなたは今、真にハッピーですか?」とやっと違う質問をしてくれた。
「はい、離婚は辛いけれど、今までが地獄のような結婚生活でしたから、それから逃れられることは本当に心底ハッピーですよ。分かりますか?」と言い切ると、
「ミセス・トンプソン、ベリーグッド!」
「サンキュー!」それで終わり。
これが真奈美のカウンセリング初体験だった。
どうも日本人の真奈美にはこういうのは苦手だ。文化の違いだろうか?正直なところ、これなら友達にでも聞いてもらった方がよっぽどましだったと思ってしまった。なぜなら、真奈美の性格をよく知っている友人なら、もう少し的確な回答を出してくれそうだったからだ。
To be continued...
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