第53話 離婚大国、アメリカ
それ以来、真奈美の心は次第にトロイからどんどん遠く離れた別世界へと移動していった。
ついに、彼女は全く別の男性を想うようになってしまった。真奈美をそのままの真奈美で受け入れてくれる男性を・・・。
しかし、もちろん、ペーパー上の結婚をしている限りそれは許されることではない。それゆえに、真奈美は心の奥深くで、真っ暗な絶望の地を這いつくばっていた。
そのせいか、トロイは、
「マナミ、なんだか君がどんどん変わっていって、僕の手から離れて行ってしまいそうで怖い」といったことをよく口にするようになっていた。
離婚率の高いアメリカでは、小さい子供たちの会話にも両親の離婚が話題になることが多い。
「ねぇ、お家のマミーとダディは大丈夫そう?」
ジュリアンには極力父母の問題を見せないように気を付けてはいたが、彼女から完全に隠すことはできていなかった。そのせいか、幼いジュリアンがとても不安そうな顔で真奈美に聞いてきたことがあった。
「ママ、うちは大丈夫だよね?」それが「大丈夫」と肯定形となっているところに彼女の気持ちが表れていた。ジュリアンの気持ちが健気で、つい真奈美は、
「大丈夫よ」と言わずにはいられなかった。彼女はその一言でとても安心したようだった。
今はまだそれでいいと真奈美は思った。
そんな折、長年の同棲を経てついに結婚に至っていたトロイの弟、クリスとその妻のジョイスが、まだ結婚してそれほど年月が経っていなかったにも拘わらず離婚したという知らせが入ってきた。それはジョイスが決めた離婚で、クリスにとっては寝耳に水だったと言う。しかも、勝気なアメリカ女性らしく、ジョイスはクリスの銀行貯金を全部引き出し、彼のクレジット・カードで自分の新しい生活に必要な家具などをバンバン買いまくって、クリスの財産をすっからかんにして出て行ったと言う。あっぱれだ。
最初はクリスの言い分だけを聞かされていたが、真奈美はあるとき出て行ったジョイスと話すチャンスがあった。
お金をきれいさっぱり取って行ったことに対して何の罪悪感もないと彼女は言い放った。ジョイスは南部の出身で、14歳の時に一人で家出してサンフランシスコにまで来ていた。だから、一人になることはなんともないと放った。
また、ある時、真向かいの家にすんでいたミセス・ゴードンが真奈美を呼び止めた。
「マナミ、あなた、大丈夫?良かったら、うちに来てお茶でもどうかしら?」
ミセス・ゴードンの家に入ると、なぜか彼女はいきなりプライベートな話を持ち出した。
「マナミは私が今の夫のジョージとの結婚の前にも一度結婚していたことを知らないわよね」
「全然知りませんでした・・・」
「若くして結婚したのだけれど、前の夫が一度手を挙げたことがあったの。そういうことは一度で十分よ。すぐに引っ越し屋を呼んで、好きな家具と一緒に家を出て来たのよ。」と打ち明けてくれた。
真奈美は米人女性のパワーは凄いと思った。アメリカにいる限り、日本人である真奈美もそれを見習うべきなのだろうか?
しかし、いくら相手がどうであろうと、日本人である真奈美にはそこまですることは到底できないと悟った。あくまでも自分らしくあらなければならない。
To be continued...
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