第52話 怒り、そして、過ち
真奈美にとってトロイは初めて深く知ったただ一人の男性であり、10年以上ひたすら良き妻、良き母を努め、日本でよく言う「尽くす女」に徹していたのだったが・・・。
普段からおっちょこちょいの真奈美は、ある週末に買い物をした後、トランクをパシッと閉めた瞬間、手に持っていたカーキーが見事にトランクの中に落ちてしまい、ドアも全部閉まっていたため、自分の車の中に入れなくなってしまったことがあった。
仕方なく、マスターキーを持っていたトロイに公衆電話から電話をした。彼はちょうど家のテレビで自分の好きなチームのバスケットの試合を楽しんでいたその最中だった。
真奈美は例のごとくに反省言葉の「アイムソーリー」を何回も繰り返しながらマスターキーを持って来てくれとお願いした。
「君はなんて馬鹿な女なんだ!」彼は大声でそう叫ぶと電話を切った。
それから15分ほどして、怒ったトロイの車が真奈美に近付いてきた。彼は1分なりとも無駄にしたくなかったのだろう。走っている車の中からマスターキーを真奈美目掛けて投げ付け、キーは車の行き来する道路の真ん中に落ちた。しかし、トロイは、そのまま車を止めることすらせずにUターンして走り去ってしまった。
唖然としてトロイの車の後ろを見送った真奈美は、左右車が来るかどうかを確認した後、道路の真ん中に小走りして行って、素早くかがんで落ちたキーを拾った。
やっと手にしたキーを握り締めながら、行き来する数々の車のスピードを体で感じながら、情けない思いにどっと襲われて道路につっ立ったまま一人大声で泣いた。
泣いているうちに、真奈美の心の底にはトロイに対する激しい怒りのようなものがメラメラと芽生えて来た。
「復讐してやりたい」
真奈美にできる復讐とは何か?それはただ一つしかない。彼を裏切って誰か別の男性を愛することだ。そんなとんでもない誤った思いが頭に浮かんでいた。
To be continued...
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