第49話 異なったバケーション・プラン

 真奈美が父と二人のトロント旅行を思い立ったのには訳があった。これまで真奈美とトロイが取ったバケーションというと、トロイが少年時代夏を過ごしたあの五大湖の一つ、ヒューロン湖に行く以外、他にどこへも行ったことがなかったからだ。

 

 ヒューロン湖は確かに美しい。しかし、このバケーションに対する感覚が真奈美とトロイとではかなりずれていたのだ。


 一般に、アメリカ人にとってのバケーションとはとにかくどこかでのんびりすること。ところが、日本人がバケーションでどこかへ出かけると、きょうはあれを見に行って、明日は何を見るかと次から次へと計画を立てがちだ。 

    

 だから、真奈美もその感覚で、初めの頃トロイに聞いたものだった。

「ねぇ、きょうはどこへ行くの?」


答えはいつも同じだった。

「どこへも行かないよ。ここで散歩をするか泳ぐかだよ」

「それはもうきのうしたじゃない?」

「・・・もう、東京の人間は飽きっぽくて困るなぁ」

「飽きっぽいっておっしゃるけれど、私たち、もうこうしてここに2週間もいて、毎日同じ場所で同じ湖ばかり眺めているんだから、少しは飽きても来ますよ」

「君は僕のバケーションを打ち壊そうと言うのかい?」

「ちょっと待って下さいよ。今僕のバケーションとおっしゃったけれど、これは私のバケーションでもあると思ったのだけれど?」

「君のように自然美に親しまない人間は本当にSickyだ。日本人は病気だ!」


 ここで付け足しておきたいのは、真奈美たちはもうこの同じ場所に少なくとも20回は来ていたことだった。


 最初の4、5回は良かった。でも、10回も20回もと回を重ねて毎年同じ場所ばかりを訪れると、ついこういった愚痴も出てしまうのだった。


 そして、何よりも納得が行かなかったことは、トロイは毎年のように勝手に自分一人で家族が行く場所はいつもの所と決めてかかっており、ただの一度も真奈美の希望を聞いてくれたことなどなかったことだった。


 20回目ぐらいからは、正直言って真奈美にとってもう、この手のバケーションは苦痛以外の何物でもなくなっていた。ただただ早くバケーションが終わって仕事に戻れることを夢見るというおかしな現象が出来上がっていた。

    

To be continued...

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