第46話 ただ唯一の問題

 風変わりな家族がデトロイトから大阪まで引越しして来て半年ほど経った頃、ジュリアンの幼稚園で先生との父兄懇談会があった。


 ジュリアンの担任の先生の話によると、

「ジュリアンちゃんは日本語もペラペラですっかり日本や幼稚園にも馴染んでいて全く問題ないです」ということで、まずはほっと一安心。


 ところが、先生は安心している真奈美に向かって付け足しをしてくれた。


「あのー、ただ一つだけ問題というか、困ったことがあります」

「それは一体何なのですか?」真奈美は先生の方へ擦り寄った。


 先生曰く、

「とても申しにくいことなのですが、実は、ジュリアンちゃんのお弁当についてなのです」


 真奈美はハッとした。


 その頃の真奈美は、英会話の教師をする以外に、例のごとく大阪でもグラフィックデザイナーを見つけ、その人とも東京でしたと同じようにデザインの勉強と英会話の勉強の交換レッスンを毎週のようにしていた。そんなこんなで結構忙しい毎日を送っていたため、ジュリアンのお弁当もアメリカ式にピーナッツ・バターとジャムのP&Jサンドイッチなど、簡単なものを持たせていたことが多かったからだ。


 先生のお話では、日本のお母さん方は皆ちゃんと朝早く起きてご飯を炊き、それぞれに色々な工夫を凝らして、パンダ弁当、うさちゃん弁当、ポケモン弁当など子供が喜ぶ楽しいお弁当作りをしているという。そういうお友達のいかにも美味しそうなお弁当を見たジュリアンが自分に持たされたP&Jサンドを食べたくないと言い始めて困ったというのだ。


 真奈美は恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた。帰り道早速近くの本屋に寄って、「楽しいお弁当作り」というタイトルの本を買い込み、それからは毎日パンダ作りやうさぎちゃん作りに励んだものだった。


 ただ、愉快なことは、その後、アメリカに戻ってからもこの動物弁当を続けてジュリアンに持たせていたところ、

「ママ、もうアメリカに戻ったのだから、パンダ弁当を作らなくてもいいよ。リラックス・・・」と言われたことだった。


 周りが皆P&Jサンドを持って来る環境では、せっかくの努力の賜物のパンダ弁当も意味をなさないということだった。


 子供にとって一番重要なことは、とにかく周りの子供たちに調子を合わせるということなのだろう。


To be continued...

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