第45話 関西弁と関東弁のバイリンガル?
そんな折、日本の大学の教授がトロイの博士号論文に協力してくれるという話が持ち上がった。
その教授は、トロイの研究分野では第一線を行く人だった。それだけに光栄なことだった。日本でガイジン扱いされることをあれほど嫌っていたトロイだったが、再び日本へ行きたいと言い出していた。しかも、今度の行き先は真奈美にとっても初めての大阪。
その上、真奈美にとっては始めたばかりの自分の勉強を途中で断念することを意味した。しかし、トロイが仕事を得るために通らなくてはならない道ならば、真奈美の夢を犠牲にすることはなんでもないと思った。
しかも、日本での勉学資金としてトロイが申し込んでおいた奨学金制度から日本での生活費一年分まで出ることになったのだ!これは苦しい生活をしていた彼らにとって救いの神であった。
気が付いたら、真奈美は幼いジュリアンの手を引いてトロイより一足先に大阪の土を踏んでいた。
2ヶ月ほどの間に住む家を見つけ、家具も揃えなくてはならなかった。自分の国とはいえ、知らない土地に子連れで舞い込み勝手が分からない。そういうときは何をすべきか?近所の人と親しくなるに越したことはない。
真奈美は早速ジュリアンと表に出てみた。こういうとき、子連れは他の子連れを探すべし。子供と主婦の輪に近付いて行った。
「あのー、こんにちは。昨日こちらへ引越しして参りましたトンプソンと申します。トンプソンという名前は、主人がアメリカ人だからです。」
「まぁ、きれいな東京弁を話されるなぁ」一番体の大きい主婦が口を開いた。
「そうか、大阪人にとって東京弁は気取った言葉なのだ。仲間に入れてもらおうと思ったら、こっちも関西弁でいかなくてはならないのだ」
瞬間的にそう悟った真奈美。
「よしゃ、言ってやるでー!」
「あのなぁ、うちなー、ほんまは関西の出身なんやけど、東京に長いこといたさかい、ときどきおかしゅうなるんやわ。堪忍、堪忍。」
今度は関西弁ですらすらと捲くし立てる真奈美に大阪の主婦たちはぽかんと口を開けて突っ立っていた。
しかし、この関西弁への速やかな変換が真奈美の関西での生活のパスポートとなったのだった。かくして、大阪の新しい隣人たちは、真奈美を仲間の一人として認めてくれることとあいなった。
To be continued...
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