第40話 どん底生活

 大学で博士号を取る段階に入っていたトロイは勉強に忙しくなり、家にいるときも疲れを理由に仕事を探す気配を見せなかった。奨学金がわずかに出たのみであった。アパートの家賃はそれを上回っていたから、親子三人の資金はすぐに底をついた。


 絵心のあった真奈美は、ジュリアンを背中に抱えて、片手には自分で描いた絵の作品を持って大学町の店を廻った。


 そのうちの一軒が真奈美の墨絵を気に入り、グリーティングカードのデザインに採用してくれると言った。自分の才能を少しでも認めてくれる人がいたことで真奈美は有頂天になった。


 トロイにそのことを報告するやいなや、もう机に向かって絵筆を握っていた。


 カード一枚描いて75セントの内職は、まるで機械のように次々とスピーディーに描き続けなければ、たいした金額にはなってくれない。描き溜めてお金をもらいに行ったその金額よりも、カードをギフトショップに届けている間に犯してしまった駐車違反の罰金の額の方が多くて思わず苦笑したのを覚えている。


 それでも、好きな絵を描いてお金をもらえることは嬉しかった。毎晩ジュリアンが寝付くやいなや、黙々と絵を描き続けたのだった。


 そんな生活だったから、たった1ドルのものを買いたいときでも、買うか買うまいかと迷ってストアの中を行ったり来たり・・・。


 スーパーの中でどのブランドが一番安いかのリストを作っていたときは、それを見ていたアメリカ人のおばあさんにテレビのリポーターと間違えられた。真奈美は一人で苦笑していた。


To be continued...

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