第39話 深まるギャップ

 真奈美は成田からデトロイトへ戻る飛行機の中で、デトロイトから東京に向かって飛んでいたときと全く反対の事を唱えていた。


「日本を脱出さえすれば、すべてが良くなるだろう」


 ところが、この旅行の最中にさえ、トロイの怒りは爆発していた。彼は日本で沢山自分の研究のための本を買い込んでいた。日本出発前に数箱船便で送っていたが、それでもまだまだ本やレコードがいくつも残っていた。結局、それらを全部箱に詰めて引きずっての旅となり、その重さがトロイを苛立てていた。


 その上、空港での待ち時間中トロイの膝の上で突然立ち上がったジュリアンが、その拍子にお漏らしをし、オムツから流れ落ちたおしっこがトロイの新着のスーツを濡らし、彼の神経を更に逆なでした。


 クリスの住むサンフランシスコで一晩宿を取った。トロイはそこに行くまでに使ったタクシーの運転手に荷物をホテルの入り口まで運ぶのを手伝ってくれと頼んだが、

「自分の仕事は運転をすることで、荷物持ちはしない」と手伝ってくれなかったため、そのときだけは、日本のタクシーの運転手なら必ず手伝ってくれると日本を懐かしんで、

“Welcome Back to the United States of America!”と苦々しい皮肉を吐き出した。


その後は、ホテルのフロントの女性の態度も悪いと言って怒り、そんな彼のゆがんだ顔を見て、真奈美は、希望の光が少しずつ消えていくのを見取っていた。


To be continued...

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