第34話 初めての出版

 真奈美は妊娠した。妊娠中も家で毎日高校生や大学生に英会話を教えていたのだが、そのうちに真奈美には一つの新しいアイディアが浮かんできた。英会話の生徒たちに伝えたい英語の内容をどんどんイラストに描いて見せてみようというものだった。


 さっそく実行してみると、生徒たちも絵を見ているうちに想像力が働いてきて、今まで思いも付かなかった違った英語の表現が頭に浮かんでくるということが簡単に理解できたようだった。これは楽しい発見だった。


 真奈美はこうしてイラストと英語表現を組み合わせた英会話の勉強法を生み出し、三日間ほとんど寝ずに本の原稿として書き上げて、ある企画会社に持って行った。


 真奈美の本のアイディアを聞いた企画会社の担当者は、イラストを使って英文を考えるアイディアをとても気に入ってくれて、

「これは本になりますね」と、信じられないことを言ってくれた。


 自分の書いた本が大手出版会社から出版されるという事実が嬉しくてたまらなかった真奈美は、とにかくどんな形でもいいからやってくれと返事をしてしまっていた。


 企画会社と何回かに渡るミーティングをした後、その頃人気のあった歌手と結びつけて本を完成することとあいなった。つまり、真奈美の本はその歌手が書いたということになり、真奈美の名前はその本のイラストレーターとしてだけ載せられることになった。


 真奈美は大きなお腹でフーフー言いながらも、その英会話の本用に100枚以上のイラストを一気に描き上げた。


 ちょっと形を変えたとはいえ、自分の書いた本が町の本屋の棚に初めて並んでいたのを見たときの感激は今でも忘れられない。なんとその本は、その歌手の人気も手伝って全国の中高生たちの間で大ヒット!飛ぶように売れた。


 しばらくすると、喜びで弾んだ声の企画会社担当者から電話が入り、出版元がその本を買った全国の中高生100名を抽選招待して、その歌手による「一日英会話教室」を開くから、出版社まで来て歌手に教え方をコーチをして欲しいと頼んできた。


 真奈美はまた大きなお腹を抱えて地下鉄の階段をハーハー言いながら登って、目指す出版社のドアを開けていた。お目当ての有名な歌手が、自分の書いた本を持って待っているではないか。それはとてもエキサイティングな瞬間であった。


 その歌手はとても謙虚な態度で、

「この度は何から何まで本当にありがとうございました」と、丁寧な挨拶をしてくれた。その瞬間真奈美は、自分の本がこの世に出て多くの中高生がそれを読んで英会話の勉強を楽しむことができたことを、歌手と共に素直に喜ぶことにした。


 無名だった真奈の本として出版されていたら、一体何人の人が買ってくれたことだろうか・・・???答えは明らかだった。


 気をよくした企画会社は、真奈美の大きなお腹を見て提案した。

「真奈美さん、今度はお産及び育児に関する日米比較論を書いてみませんか?まず一人目を日本で産んで、是非二人目はアメリカで産んで、その違いを本にして書いてくれれば、今度はあなたの名前で出版しましょう!」


 それは真奈美にとってとても喜ばしいオファーだった。


 しかし、その後真奈美が再び妊娠することはなかった。

 

To be continued...

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