第25話 隣人は麻薬ディーラー?

 若いというのはいいことだ。一つのことだけを目指して突っ走ることができる。


 実際その頃の真奈美は、とにかくアメリカに慣れなくてはということで頭が一杯だった。それ以外のことは何も考えていなかった。


 しかし、真奈美にとってのデトロイトでの学生結婚は想像以上に大変なこととなっていた。


 新聞広告を見て、トロイと真奈美の予算で探し当てた家は、家賃月160ドル。


 二階にギョロ目の大家さん、ミスター・ブラックが猫8匹と住んでおり、彼の家の一階が真奈美とトロイの住み家となった。外から見るとまるでお化け屋敷のように古くて暗い小さな家だった。


 狭いリビングの壁の一つは、趣味の悪い黒と銀の模様の付いた鏡となっており、その他の壁は、これまた趣味の悪い色合いのブルーでべったりと塗ってあった。しかし、学生結婚の彼らがまかなえるのはその家ぐらいしかなかった。地下室も付いていたが、蜘蛛の巣だらけでとても怖くて足を踏み入れる気にさえならない代物だった。


 それでも、自分たちの家を持てたことが嬉しくて、真奈美は鼻歌を歌いながら窓ガラスを掃除し、隣の人にもニコニコ顔で挨拶していた。


「ハーイ、私はマナミよ。東京から来たの。あなたは?」てな調子。


 後で聞いたところによると、なんと隣は麻薬の売買をしていた人達だった!どうりで彼らが、あまりにもフレンドリーな東洋娘に声をかけられて、逆に緊張した面持ちでこっちを見ていたわけだった。


 やたら明るい東洋人の女の子は麻薬ディーラーの彼らの度肝を抜かしたことだろうと真奈美は一人で笑ってしまったものだった。俗に言う「知らぬが仏」とは正にこのことだ。


To be continued...


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