第19話 カルチャーショック
何があっても新しい文化に馴染む覚悟を決めてアメリカに向かった真奈美だったが、日米文化の違いは、その後も彼女の周辺を囲んで放さなかった。
例えば、結婚式を前にして、ミセス・トンプソンが真奈美のために多くの友人を自分の家に招待してシャワーを開いてくれると言った時、真奈美はまずきょとんとした。
「シャワーってまさかミセス・トンプソンの友達と水かけっこをするわけではないよね?」というのが単純な疑問だった。
ミセス・トンプソンは笑って説明してくれた。新生活に必要な家庭用品がプレゼントされるパーティのことなのだが、プレゼントがシャワーの様に降り注ぐという意味から一般にブライダルシャワーと呼ばれているということだった。
ゆうに15人はいたから、少なくとも30の目が見つめる中で、その15人が選んで持って来てくれたプレゼントの数々を一つ一つ開けては、その度に彼女たちの前で喜びの表情を見せなくてはならない。
人前ですぐにギフトを開けるのは失礼と、さっさと奥にしまってしまう環境からやって来た人間にとって、これもまた拷問としか言いようのないものであった。
真奈美は包みを開けながら、
「さぁ、次は何と言って喜んで見せるべきか?もし、まったく気に入らないものが出てきても喜ばなくてはならないのだろうか?」などとつまらないことを考えていると、緊張で足が震えてきて自分が情けなく思えてきた。
「あほ!これぐらいのことでみっともないぞ!」真奈美は心の中で自分を叱りつけた。
「よし、頑張って演技してみせるぞ。」
一つ目、「オー、ワンダフル、サンキュー」
二つ目、「オー、ベリーナイス、サンキュー」
三つ目、「オー、ビューティフル、サンキュー」
四つ目、「オー、スーパー、サンキュー」
五つ目、「オー、グレート、サンキュー」・・・。
さぁ、次に使う言葉がなくなってきたぞ。てな具合いで、全部開け終わって,
「サンキュー、サンキュー」を何十回も繰り返した後は、どっと疲れが体中に押し寄せてきて、表現が控え目な日本人としては、どこかで横になりたいような心境であった。
ところが、カルチャーショックを感じていたのはこちら側だけではなかったようだ。
クリスマスが近くなって、トロイの親戚の家で大パーティーが開かれた。
そこでライトの灯った天井まで届きそうな見事なクリスマスツリーに見惚れて、感慨深いまま言うべき言葉を失ってただつっ立っていた真奈美を見たトロイの従兄弟は、真奈美の方に近寄って来ては、
「ビューティフルだと思わないのか?」と聞く。
「もちろん、思いますよ」
「何も言わないから、仏教の国から来た人は気にくわないのかと思った」
「とっ、とんでもない!ときに日本人は感激の余り言葉を失うということもあるのです」と真奈美。
「でも、本当にワンダフルと思っていますか?」
「もちろん!ワンダフルでファンタスティックでビューティフルですよ」と次々に賛辞を並べると、このアメリカ人はやっと満足したのか、スナックをつまみに隣の部屋まで消えて行ってくれた。
このような微妙な感情表現の差異がときには思わぬ誤解を生み、
「日本人は何を考えているのか分からない」などということになるのかもしれないと、そのとき真奈美は思ったのだっだ。
To be continued...
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