第15話 未知の世界へ向けて出発!
真奈美が次に考えなければならなかったのはデトロイトへの飛行機代だった。
東京で一年働いて貯めたお金をすぐ飛行機代に使ってしまって金欠病の身でアメリカに向かう気にはなれなかった。しかし、この問題は意外と簡単に解決できた。
デトロイト入りする前の2ヶ月間だけサンフランシスコの大学で日本人留学生を世話する仕事をすることが決まり、会社が片道の飛行機代を出してくれることになったのだ。
まだもう一つこの結婚に納得のいっていなかった父には、ただ仕事でアメリカに行くだけで、仕事終了後には東京に戻ると伝えてあった。本当はトロイとの結婚のためにアメリカに向かい、デトロイト入りの後に結婚し、その後はそのままデトロイトに住み着くという計画は、時期が来た時点で, 責任を持って母が一人で父に説明するから真奈美は何も心配する必要はないというお膳立てになっていた。
「お母さん、有難う。お父さん、ごめんなさい」
複雑な理由のため、永住するためにアメリカに向かうというのに、留学生のグループと一緒で、家族の見送りも何もない味気ない出発となっていた。
待てよ!日本を出発する前に、もう一つだけしておかなければならないことがある。それは何か?
学生時代からずっと演劇をやっていた真奈美は、夏季留学に行く以前に、短大の演劇部のコーチの紹介で、あるプロの劇団に裏からもぐり込んでおり、正式にオーディションを受けて劇団員になるつもりでいた。
ところが、劇団のプロモーターの富山さんから、
「君は芸能界がどんなところか分かっているよね。ここで有名になっている女優たちはそれぞれ劇団長の愛人になっているんだよ。だから、君もそれぐらい平気だという覚悟はしておかないと駄目だよ」と言われた。
芸能界の裏話を耳にしたことはあったが、まさか自分の身に負いかかるなんて!
驚いた真奈美は、
「つまり、劇団長と寝ろということですか?」と直接的質問をしたが、それは質問する前から答えの分かっていた質問だった。
「私はそんな汚らわしいことは考えることすらできません」と切り返すと、
富山さんまでが、
「だから、子供はしょうがないんだよなー。そんな綺麗ごとを言うようなお嬢さんなら、さっさとお嫁に行って、普通の奥さんにでもなった方がいいんじゃないの?」会話はそこで止まっていた。
また出た「子供」と言う言葉に付け加えられた「お嬢さん」という言葉。富山さんはそうやって真奈美を馬鹿にすることで真奈美を納得させようとしていたのだろうか。そんな手に乗るものか!
真奈美は富山さんの言った「日本で普通の奥さんで収まる」という筋書きを考えてみた。それはとても魅力的ではあったが、何かそれだけでは先々まで見え過ぎている気がした。
自分はまだ若い。
未知の世界に挑戦してみたい。
日本を出て別の世界を見てみたい。
日本での常識が世界の非常識ということもあるかもしれない。
それを自分の目で確かめてみたいとは前々から思っていたことだった。
そうだ!結婚して普通の奥さんになれと言った劇団の冨山さんに電話を入れておこう!真奈美は出発前ゲートで公衆電話を使って富山さんに電話を入れていた。
「富山さん、これまで色々とお世話になりました。富山さんのおっしゃたように、私はお嫁に行くことにしました。相手はデトロイトにいるため、きょうの飛行機で一時間後に日本を出ます」
富山さんは度肝を抜かしたことだろう。
かくして、愛のための結婚を夢見た若き真奈美はデトロイト行きの飛行機に飛び乗っていた。
To be continued...
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