第13話 一途な性格の真奈美

 父はまた、真奈美は一度思い込んだら何が何でも突き進む性格であることをよく知っていた。


 真奈美が13歳のとき、中学の教室から出てきた同級生が階段の上から下まで落ちて行ったことがあった。その光景を目の当たりにした真奈美は、擦傷一つなしに起き上がった同級性の後を追って行って、階段を20段ほど落ちたにも拘わらず、どうして怪我一つしなかったのか聞いてみた。


 彼は柔道を習っており、受身を何回も練習していたことから自然に体がボールのように丸くなって落ちて行けただけだと、ことも無気に説明してくれた。


 柔道というものにすっかり魅了されてしまった真奈美は、自分も柔道を習いたい・・・どこへ行けば柔道が無料で習えるものかと考えてみた。というのも、彼女の母親は食べるものさえろくになかった戦争時代を経験していたから、生きるのに最低限必要なことにしかお金を使うことを許してくれない人だということをよく知っていたからだ。


 足はすぐに警視庁に向かっていた。

「お金はないのですが、柔道を習いたいのです。邪魔はいたしませんから、警察官が練習をする時一緒に仲間に入れてもらえませんか?」 


 ふっと吹けば飛びそうに痩せた小さな女の子がよくぞ一人で警視庁まで乗り込んで来たと、そこの署長は面白がってすぐにオッケーしてくれたのだった。


 ただ一つの問題は、そこでは柔道ではなく、剣道しかやっていないと言われたことだった。


 真奈美はちょっとガッカリしたが、

「柔道でも、剣道でも(道)さえ付けばなんでもいいです。」と言ったものだから、ごつい顔をしていた署長も大声をあげて笑った。


「よし、いい根性をしている。これから1年だけ、雪の日も雨の日もやって来い」


 それから、きっちり1年間、毎週警視庁に通って大きな警官たちの中で真奈美が一人掛け声を掛けながら剣道の稽古に励んだことは父や母をも驚かせたものだった。父の日記にも「ぶったまげた!」という言葉が使われていた。


 また、子供の頃になぜかウェイトレスになることに憧れていた真奈美は、短大1年の夏休み、渋谷にあった喫茶店でバイトをした。喫茶店はガラス張りの洒落た外観で、俳優など有名人がときおり立ち寄る店だった。


 そのとき、なんと真奈美の父はその喫茶店まで出向いて行って、そこのマスターがちゃんとした人物であるかどうかを調査したのだ。


 ウェイトレスの父親がマスターをインタビューしたのは喫茶店始まって以来のことだと、マスターが従業員全員の前で大袈裟に発表したため、店中の話題に上った。


 そんなお嬢様ならきっと長くは続かないであろうと、わざとトイレ掃除など、人が嫌がる仕事を真奈美に押し付けてくる人もいた。つまり、真奈美はそこで常にテストされていたわけだった。


 皆が、

「そのうち弱音を吐いて辞めるぞ」と見ていたことを真奈美は身で感じていた。父でさえもいつまで続くかと見ていたようだった。それだけに、彼女は意地でも夏休みが終わるまでずっとやり通した。


 そんな風に真奈美が母親譲りの頑固さを持っていることも父はよく知っていたのだ。だから、きっと異国でもなんとか逞しく生きていくだろうと信じてくれていたようだった。


 実際、その後の真奈美のアメリカでの人生は、父の言葉通り何から何まですべて自分の責任で運命を切り開いていかなければならないものとなっていった。


To be continued...

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