第11話 日本の学校で習わなかった英語表現
たまたま父の教え子の一人で、英会話の練習をしたがっている若い男子学生がいた。そこで、仕事が忙しくなった真奈美は、その彼、林君にトロイのお守りを頼んで東京案内をしてもらうことになった。
その日だけはトロイや母からの電話も入らず、
「やれやれ」と安心していた真奈美。夕方、その林君との約束通り銀座までトロイを迎えに行った。
ところが、待ち合わせの場所に行ってみると、お目当ての二人が立っていたには立っていたのだが、それぞれ反対の方向を向いて立っており、なんとなく様子がおかしい。まずシャイで大人しい林君の方にどうだったのか聞いてみた。
すると、彼曰く、
「すべて順調にいったかの様に見えたのですが、『英会話の練習の相手になってくれてありがとう』とお礼を言っただけなのに、『そんなことを言うな』と否定され、まったく何がいけなかったのか分からないです。それ以来変なんです」と言う。
それで、トロイに、
「彼はあなたに『英会話のお付き合いをしてくれてありがとう』とお礼を言おうとしただけなのよ」と説明した。
すると、トロイは、
「そう、そんなことは分かっているよ。だから、『どう致しまして』と返事をしたんだよ。そしたら、彼の方がなんか急にびっくりした顔をして、それから、変なムードになってしまったんだよ。訳がわからないで困惑しているのはこっちの方だよ」と応えた。
トロイの使った英語表現を聞いて、真奈美にはすぐ納得が行った。
通常、日本人は英語での「どう致しまして」を、学校で”You are welcome.”と習っている。ところが、トロイが使ったのは、意味は同じだが、“Don‘t mention it”。だったのだ!
“Don’t”と否定形が入ったがために、林君は、
「そんなことを言うな」とばかりに自分が怒られてしまったのだと勘違いしたようだった。
まったくそれだけのことだったのだが、二人とも何が勘違いの基になったのかさえ分からず、気まずいムードの中、お互い黙ったままで突っ立って、ただただ真奈美が現れるのを待っていたようだった。
笑い話としても使えそうなエピソードだが、それにしても、外国語とは容易く誤解を生むものである。
To be continued...
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