BONUS-TRACK:2 神様のおせっかい

【シチュエーション:念願の火山神殿へとやってきたヒロイン。女神ヒプノの像に祈りを奉げていると、その時不思議なことが起こって……?】




【神像を前に二人並んで祈っている/ヒロインの位置は左側/距離は近め/全体的に声が響く場所なので、声量は粛々と抑え気味に】


「やっと……マグマケイノの神殿で祈りを奉げることができます」


「人々がこの地を捨てて逃げ延びてから、幾百年……ヒプノ様。私は当代の聖女を務めております、エイエス・エムアールと申します」


「ヒプノ様がこの地を守護してくださったおかげで、勇者様は魔王を打ち払うことが叶いました」


「正式ではない来訪ではございますが、まずはわたくしから、聖女として感謝を申し上げます――」


(祈るため、2~3回分の呼吸の間を置く)



(SE:ヒロインが立ち上がる衣擦れの音)

「勇者様、本当にありがとうございます。おかげで夢が一つ、叶いました」


「ほんの少しだけ、ヒプノ様の声が聴こえれば……という期待があったのですが」


「わたくしが未熟なせいなのか、勇者の紋章がなければならないのか……」


「え? ええ、わたくしなんて全然まだまだなんです。当時の聖女は、その身を依り代としてヒプノ様を降臨させ、神託を聞いていたといいます」



「そういえば、ぬしには聞かせたことがあったよの?」


「あの時は愉快じゃったなあ~。もう主ときたら、の声を聞くなり頭の中がこの娘のことでいっぱいになりおってからに。かっかっか」


「……なんじゃその目は。『俺は見破っているぞ』とでも言いたげな顔じゃの」


「別に隠そうともしておらなんだ。そんな勝ち誇った顔をするでないわ、たわけめ」


「そうじゃ、余がヒプノじゃ。苦しゅうない」



【ここからしばらく、ヒロイン(ヒプノ)が主人公の周りをうろちょろするため、位置が動く】

「それにしても、やはり異なる世界の住人とは不思議なものじゃのう。魂の気配からして違う」


「普通、余の威光を前にすれば人間は頭を上げられなくなるものじゃが。主は平気そうじゃ」


「主の世界には、神などはおらんかったのか?」


「何、やおよろず? ……八百万ン!?」

【周囲移動ここまで】



「ああ……あっそ。いや別に驚いてなどおらぬわ。余にかかれば指先一つでけちょんけちょんじゃからな」


「おっと、本題を忘れるところであった」


「――そうれっ!」


(SE:魔法のようなキラキラ音)

(SE:主人公が床に倒れる音)

【ヒロイン(ヒプノ)の力で主人公が押し倒される/位置は前(上)/距離は近め(ヒロインが詰め寄るため)】


「っくく……これで動けまい」


「のう勇者よ。余は怒っておるのじゃぞ?」


「とぼけるでない、余はすべて見ていたからな」


「このエスという娘のことでじゃ」


「まったく……旅に誘ったまでは主もやるなと感心したものだが、そこからいーーーーっこうに進展せんではないか」


「しらばっくれるでない。ドウナーン村では、この娘が聞いてきた『昨夜はお楽しみでしたね』に反応していたじゃろうが」


「なーぜにあそこで説明をせん。押し倒す好機じゃったじゃろうが」


「……何? 朝食? 一食くらい抜いたとて死にゃあせん。だがな、人の想いというのは一晩放っておけば冷めるのじゃぞ?」


「ここに来るまで十を超える夜を明かしておいて、チッスのひとつも見れず、余は大変不満である!」


「……ん? ああいや違う違う、別に余が見たかったわけではない! 勇者と聖女の血が交わること、ひいては人の世の未来を憂いてのことじゃ」


「ええい、ニヤニヤするでないっ、たわけめ!」


【ヒロイン(ヒプノ)が立ち上がる/距離がやや遠くなる】

(SE:がしがしと蹴りつける音)

「主がこの娘にチッスをすると言うまで、余が直々に罰を下してやろう! えいっ、えいっ!」


(SE:がしがしと蹴りつける音)

「『俺はエイエスにチッスをします』、はい復唱っ!」


(SE:ぺしぺしと蹴りつける音)

「『勇者様はわたくしにキッスをします』、はい復唱っ!」


「むう。勇者様、どうしてそんな風にニヤニヤしていらっしゃるんですか?」


「……えっ、あれっ? いつの間に戻って!? というか気付いて――?」


「~~~~~~っ!?!?」


「ダメですこっち来ないでください今顔を見ないでください踏んづけてごめんなさいぃぃぃ」


「うえええん、ヒプノ様のばかぁ~!」

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