(7)ダークドラゴン戦後

(SE:ワープの音)

【膝枕の想定で正面・やや近距離】


「――様……勇者様」


「おはようございます。前回のリスポーンから十日。お久しぶりですね、えへへ」


「……ええ、わかっています。その方がいいということは」


「わたくし、最近自分が怖いのです」


「勇者様にお会いしたいと願うことは、すなわち、勇者様の――」


「その先は言わなくていい? ですが……」


「はい。ありがとうございます。勇者様は本当にお優しいのですね」



「――では、こほん」


「気を引き締め直して、聖女のお勤めに徹しますね! ふんす!」


「……えっ、気合を入れ過ぎるのもダメ? どうしてですか?」


「わたくしの真剣な顔も好きだけれど、笑っていた方が似合うから……えっ、ええっ?」


「わたくしの笑顔に胸を張って会うために頑張っていたら、十日もリスポーンせずにいられた……?」


「――ちょちょちょ、ちょっと待ってください! わかりました、わかりましたから!」


「~~~~~~っ!!」




【ヒロイン撃沈、勇者の胸に顔を埋める。声が反対方向へ向く】


「……ヤです。見せてあげません。つーん」


(小声で)「そうやって勇者様はいつも、涼しい顔でわたくしの欲しい言葉をくださるんですから……」


「どうせ、旅先で出会った他の女の子にもそうやって口説いているんでしょう? 王都でも大人気ですもんね。つーん」


「えっ、他の子には言ってない? ……本当ですか? ヒプノ様に誓えますか?」


「……わかりました。じゃあ許します」




【元の膝枕姿勢に戻る】

「それで……勇者様の快進撃を止めたのは、どんなモンスターだったのですか?」


「あ、暗黒龍!?」


「魔界への門番ともいわれる巨大な黒龍を……そうですか、ついに旅もそこまで」


「ちなみに、暗黒龍は今……?」


「――ああいえ、勇者様のことですから、きっと既に倒しておられるのでしょう」


「それで? 今度はどんなドジをしたんですか? 魔界のキノコでもお召し上がりになったんですか? 魔界への門に挟まれてぺっちゃんこですか?」


「えっ、ドジはしていない? 本当ですかぁ?」


「なーんて、冗談です。さっきの仕返しですよ、ふふっ♪」



「ふむふむ。暗黒龍の首に突き立てた剣が抜けず、空へ……えっ、空ですかっ」


「なるほど、龍は勇者様を高所から振り落とすことで弱らせようとしたんですね」


「空高くまで飛んで、太陽が近づいて。その時、龍払いの剣が輝いて……」


「そうでした、女神ヒプノ様の御力は、闇を照らす太陽の光!」


「力を増した剣で暗黒龍をズバッと倒したわけですね!!」


「えっ、まだ……?」


「首が半分千切れながらも辛うじて生きていた暗黒龍が、断末魔を上げながら勇者様目掛けてブレスを……?」


「龍払いの剣が発する閃光と、暗黒龍のブレスとが、ほぼ相打ち状態……」


「ふぅ……お話を聞いているだけで、冷や汗が滲んでくるようですね」


「勇者様はずっと、そんな薄氷の上を渡るような戦いを――」




(SE:ポンッ、と軽快な破裂音(アニメなどで小さな精霊が現れる時のような))

「あっ……勇者様、頭が! 頭がモジャモジャに……っ!」


「えっ、暗黒龍のブレスが頭に当たって燃えてしまった……!?」


「ぷっ、くくっ、ごめんなさい、だめ、笑っちゃ……ごめ、なさ、あはははははっ!」


「だって、すごくモジャモジャ……ふふっ。暗黒龍との激戦を制した勇者様が、モジャ……っ!」


「ひぃ、ひぃ……!」



「はい、ごめんなさい。もう笑いません。すぅー、はぁー、すぅー、はぁー」


「でも不思議ですね。お召し物や鎧は戻りますのに」


「もしかしたら、髪型を変えたという風に判定されたのでしょうか?」


「……いえ、冷静に分析している場合ではありませんね」


「あっ、それではこうしませんか?」


「笑ってしまったお詫びに、わたくしに勇者様の御髪おぐしを洗わせてください」


「以前、うちの見習いちゃんが、髪に優しくていい香りのするシャンプーを勧めてくれたんです。すごく気に入っていて」


「そうです、勇者様がキラーベアーとガルーダを倒された時の、あの香りのするやつです。さらさらになりますよ~♪」


「それと、お背中もお流しします。ここまで戦ってこられた勇者様への慰労と、これから魔界へ挑む勇者様への前祝いを兼ねて!」



【腕を組んで歩き始めるため、距離が近くなる。声は主人公の左耳】

「たっぷりご奉仕させていただきますねっ♪」


「ほらほら、恥ずかしがってないで。行きますよ~!」



(小声で)「……ですからどうか、無事に帰ってきてくださいね」

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